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誕生日の日は朝から皇帝の嫌がらせが満載だ。ジェイドは憂鬱そうにため息をついた。
「只今入室できません」
「何故です。私の部屋ですが」
用あって執務室を抜け、帰るといつもの扉番が知らない兵に変わっていた。
どうせピオニーの仕業だとわかりきっているが。
皇帝の命令に忠実な若い兵をギロリと睨む。
途端に脂汗をかいているようだが知った事ではない。
「あ、あの皇帝勅命を出されてますので……ご勘弁下さい」
「ふん……。時には柔軟に考える者でなければ戦場では生き残れないと胸に刻んでおいてください」
入室を諦め軍部を歩けば目上の将校らが口々に「今日は帰りなさい」と言ってくる。気が滅入って食堂でお茶を頼めば、オーダーしていないのに派手なバースデーケーキも出され、居心地が悪くて仕方がない。
毎年の事だが、ピオニーの嫌がらせは容赦がない。
誕生日くらい休めという命令を聞かない自分も悪いのだが、軍部から居場所を無くす方法は他人にも迷惑がかかり鬱陶しい。
(どうせ屋敷に変な贈り物が届いているんでしょう)
ピオニーの予定通りに
動くのも癪なので、自宅には帰らず街を歩いてほとぼりが冷めるまで待つことにした。
グランコクマは手入れが行き届いている綺麗な都市だ。
こんな晴れた日は街に流れる水路に空の青が映って美しさが増すようだ。
ポケットに両手を入れ、ゆっくりと歩を進める。あてもなく歩くという行動は久しぶりであり、贅沢な時間のように思えた。
(妙なサプライズより、こんなふうにゆっくりとできる時間の方が嬉しいんですがね)
─────「なんか幼稚な感じもしちゃいますか?」
「いえ、賑やかで素敵ですよ」
「いいじゃん、なんかこういうの懐かしいよな」
誕生日のジェイドを祝う手づくりの飾りは孤児院で毎月しているような雰囲気だ。
自宅に帰っていたゲイリーも焼き上げたケーキを持ってやってきた。
しかし主役は未だに姿を現してはくれない。パーティーをすると約束を取り付けていないから仕方のない事だ。
「でも、良かったんですか?孤児院の方へ顔を出さなくて」
「ジェイド様もいつ帰ってくるかわかんないしなぁ。
一日無駄になる可能性もあるぜ?」
男二人は心配そうにユナを見つめた。
しかし、迷いのないユナは二人の優しさに感謝しながらも否定した。
「無駄にはなりませんよ。
こうして準備してるのもワクワクしながら待つのもすごく楽しいです!」
フィリップとゲイリーは互いの顔を見て、同じ思いを確認しあった。
……この子がジェイドの心の闇をいつか溶かしてくれるのではないか……と。
主役がいないにも関わらず、三人はその後も楽しむように待ち続けた。