TOA 2
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ピオニーは平民の格好をして宮殿を抜け出し、街へと繋がる地下通路を歩いていた。
勿論目指すはユナが休暇を過ごしている孤児院だ。
どうにかしてやると啖呵を切ったものの、勢いで出たために良い解決策も練ってはいない。
そもそも親友であるジェイドとの関係を拗らせる程自分は彼女を欲しているのだろうか?
今すぐ結婚する気も無いくせに、だったらジェイドに譲ってしまえよと、自分を責めた。
「あ、モグラ怪人だ〜!遊んで遊んで!」
孤児院に着くとすぐに子供たちがまとわりついついてきた。
「ダメよ、モグラさん困ってしまうじゃない」
庭で子供たちと遊んでいたユナと早速出くわした。
(……今日も可愛いじゃねぇか)
さっきまで思い詰めていた気持ちはなんだったのだろうか、見た瞬間にジェイドになんかやれるわけもないと結論した。
「……モグラさん?今日はどうしてこちらに?」
黒い円らな瞳が自分を見る。馬鹿げた考えを見透かされる恐怖と戦いながら、こちらも見つめ返した。
「ユナとちょっと話があってな。二人きりになれる?」
すかさず子供たちにブーイングされるが、優しいユナは30分だけと約束して彼女の元自室へ招き入れてくれた。
「荷物は全部あちらにあるから寂しい部屋ですけど」
「あぁ、かまわない」
ベッドと小さな棚くらいしかない部屋を見渡す。一度だけ入った事のあるこの場所は強烈な印象を残して頭の中に住み着いていた。
花嫁衣装を着たユナをエドガーから救うために自分の正体を明かした場所だ。
身分の差から一時期ギクシャクした関係もあったが、今はこうして元通り、肩を並べて座ってくれるようになった。
「で、お話って?」
ギシ、と座っていたベッドのスプリングが軋む。わざわざ自分の方へと向き直ってくれたようだ。
近い距離にピオニーの心は弾んだ。
「ジェイドの話なんだけど」
しかし奴の名を出しただけでユナの瞳がキラキラと輝くのだ。
予想以上に事態は深刻だ、と焦る。
言いたかった事は頭から抜け、何故かその瞳を見ていたいとユナが喜ぶ話題を提供してしまっていた。
「えっと、そう言えば万年筆喜んでたよ。プレゼントしたんだろ?」
「わぁ、本当ですか?嬉しい!!
1時間近くお店で悩んだ甲斐がありました」
プレゼント選びにそこまで時間をかける人間は珍しい。
世界に浸透するローレライ教団の預言によって簡単に正解を教えてくれるのだから。人々が頼る気持ちもわからなくもない。
間違いではないか不安で、考える時間も無駄なようで……。
でもこの世の中でそんな回り道することが素晴らしいのだと気づいているのは自分とユナだけ。
そんな彼女の魅力に気づいているのも自分だけなはずなのに……。
「これまた悩んだな」
「はい、でもその分こんなに嬉しさ感じてますから!」
胸に手をあてながら眩しい程の笑顔を見せる彼女の頭の中はきっとジェイドでいっぱいだ。
「……いいなぁジェイドが羨ましいよ」
「?」
つい本音が漏れたので、このまま勢いに身を委ねる事にした。
「モグラさんのお誕生日も勿論お祝いしますよ?」
「違うよ、その考えてる時間が羨ましいって事。
その時間、君の頭の中はジェイドでいっぱいだったんだろ?」
「えぇっ!?……そ、そうですかね?
……で、でも、誰でもプレゼント考える時はそうじゃないですか?」
指摘されて慌てる顔も染める頬も可愛いくて今すぐ自分のものにしたいのに、
ジェイドを思っての表情なのだ。
「でも自覚ないんなら、まだ引き返せるな」
「え!?」
ピオニーは慣れた手つきでユナをベッドに押し倒した。
勢いに身を任せた結果だ。