TOA 2
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「ジェイドになんか渡さないから」
「……えっ!?」
腕一本分の至近距離だ。天然鈍感娘も流石にこの状況で頬を染めずにはいられないらしい。
自分に向けられた羞恥の顔を見て嬉しさが込み上げた。
(今、ユナの頭の中は俺が支配している)
「渡すって、なんのことですか?」
「とぼけるなよ、わかってるだろ?
俺とジェイドがお前を欲しがってる状況。
……だから、俺はあいつにはやらんと言ってるんだ」
身体を支えてた腕を折り曲げ、ユナの耳元へ唇を寄せて囁く。
ジェイドの宣戦布告を受けて立つつもりだと。
「ちょ、ちょっと待ってください。
この体勢では……まともに会話できませんから!」
ユナは一生懸命両手でピオニーの胸を押し退けようとした。
しかしピオニーの身体はピクリとも動かない。これでも理性を働かせているつもりだ。
先に進まないだけでも良いじゃないかと、そんな事を考えている。
半ばあきらめたユナは赤くなる顔を隠して喋った。
「私はメイドとして主人であるジェイドさんに尽くしてるだけです。
時間かけてプレゼント選ぶのは、そう、仕事ではないです。……でも恋愛とか、そういうのじゃないです!」
「ほーぉ、ではなかなか帰らないジェイドが待ち遠しいのも?
帰ってきたら尻尾ふって喜ぶのも?メイドとして普通な感情なのか?」
ピオニーは無自覚すぎるユナにだんだんと苛つきながら意地悪な質問を繰り返した。
「そうです……たぶん。
……ていうか尻尾なんてないです!」
「尻尾もたぶん?……調べてあげよっか?ちょっと腰浮かして!」
調子にのったピオニーはそれはそれは極上の笑顔でセクハラ発言をするものだからユナの中で多少遠慮していた何かが吹っ切れた。
「いい加減にしてください!!」
今までピオニーの胸の辺りを押さえていた手を臍の少し上を狙って突いた。
みぞおち、いわゆる急所だ。
「うっ……!」
襲われた時にそこを狙えと教えたのはピオニー自身である。
苦しむ隙にベッドから離れるとユナはファイティングポーズをとってみせた。
「もう30分です。
二人きりでお話しません!……ていうか、こんなことするモグラさんは大嫌いです!!」
『大嫌いです』
みぞおちの痛みよりも衝撃的なその言葉は頭の中で何度も繰り返され、くらくら目眩を起こす程だ。
ピオニーはそのまましばらく動けなかった。
ユナはと言うと、怒り任せに廊下を歩きながらピオニーの言葉を思い出していた。
(欲しいとか渡さないとか、私はまだ勉強中のメイドなんだから!
あんなことして脅すなんて……からかいにも限度ってもんが……)
まさかピオニーに口説かれているとは微塵も思っていなかった。