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───「で、つまり収拾つけられずしかも嫌われて帰ってきたという事ですね。
……へたれ、と呼ぶべきでしょうか」
「へたれじゃねぇ!
ユナがじゃじゃ馬過ぎるんだ!
ベッドの上で口説かれてんのにみぞおちパンチ入れるか?フツー」
「ふふ、ユナさんらしいですね」
「単に嫌だったのでしょう」
「あぁ、もうジェイドはこれ以上傷口をえぐるなっつーの!」
今度はピオニーの私室で報告会だ。
三角関係の当事者である癖に解決をピオニーに任せるジェイドに、外野にいる余裕で面白そうに話を聞くアスラン。
二人ともピオニー腹心の部下だ。
困った時は預言なんて聞かず、いつも彼らの助言を聞いていた。
「どうしたらいいと思う?」
「だから、私に聞かないで下さい。自分で蒔いた種でしょう?」
ジェイドはやはり自分の事であるにも関わらず投げ槍だ。
「そうだ!いっそ、今からアスラン家のメイドに変更させようか?」
「いえいえ、私は名家の出でもありませんし新しいメイドを雇うような余裕もございませんから!」
外野で楽しく聞いていたはずのアスランは巻き込まれるのを怖れて、全力で首を横に振った。
「……なんだよお前ら冷てぇな」
ピオニーは不貞腐れたように応接用のソファへ寝転んだ。
「……確かに私も陛下の意見に賛成ですね。カーティス家でなくどこか他のお屋敷に行かせましょう」
「ん?どうしたジェイド、急に手離す気になったか」
顎をあげて、そう言うジェイドの顔を見上げた。
特に表情はいつもと変わらないが彼は落ちてもない眼鏡のブリッジを上げる。
「私、これからケセドニアで一ヶ月程滞在しようかと思いまして」
「なんだ?俺は聞いてないぞ。」
「あぁ、陛下は半日ここにいらっしゃらなかったですね。
ケセドニア北部でキムラスカ軍が再び動いていると知らせが入りまして。
何か手を打たないとまた小競り合いが激化しそうなんです」
アスランが報告するのは陛下不在であった軍の議題に上がった内容だ。
一応報告書を渡した筈だが読んでないのかとジェイドは呆れたようにため息をつく。
「はー……、で第三師団全軍を率いてあちらで大規模な軍事演習を行おうと思ってます。
まだゼーゼマン参謀総長から
承認いただいていないので確定ではありませんが」
「大佐はそう仰いますが、承認する意向で話は進んでますよ」
「ほぅ、確かにそれはいいかもな。
第五師団からお前の師団に変更したばかりだ。向こうに力を見せつけて怯ませるのも手だ。
いいよ、賛成だ。反対する者がいれば俺が話をつけてやる」
ピオニーは寝転んだ姿勢のままだが口調は皇帝らしく潔く決断を下した。
「ありがとうございます。
では、ことさら早急に我が家意外の屋敷を手配しなければなりませんね。
1ヶ月も主人が不在では勉強の意味がありませんから」
「だな。俺が探すよ、変な虫がつかないようなとこな!……ってか、アスラン。お前本当にダメか?」
再び白羽の矢が立つのでさっきより勢いよく首をふった。
「お引き受けできません。
私も変な虫の一人かもしれませんよ?」
「そうか〜?……お前浮いた噂一つも
ないし。あ、女に興味ないとか!?」
「お陰様で仕事に夢中なだけです」
いつもの物腰柔らかな青年も今回ばかりは慌てふためいた様子だった。
皇帝と懐刀に好かれる女性なんて
恐ろしくて我が家に置いておけるわけがない。
「……話が脱線しましたが、では私の方からユナに提案してみますね。
事前に相談も無しだと怒られそうですから」
「あぁ、よろしく」
「……参謀総長を説得するより難しそうですね」
アスランがポツリと呟いた事で自覚していた二人が揃ってため息をついた。
「その通り、……だよなぁ」
エドガーの件で何度も何度も目の当たりにした頑固なユナの性格。
ジェイドの智謀を持っても難しいと予想できた。