TOA 2

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それから軍部での会議にて軍事演習が正式に決まったジェイドは準備に追われ結局自宅に帰ったのはケセドニア出発三日前となってしまった。


いい加減にユナと話をつけなくてはと仕事を早めに切り上げ夕刻前には屋敷に着いた。


「おかえりなさいませ、ジェイドさん」

控えめに出ては、自然とジェイドの鞄を手に取るユナの動作はフィリップの空気そのものだ。

「あぁ、ユナでしたか。ただいま」

疲れもあったので、ジェイドはやっと出迎えた人物がユナだと気づいた。
誕生日に帰ってきてから一週間以上も間が空いた。その間フィリップに教えられ着実にメイドとしての技術を磨きあげたのだろう。


ジェイドはすぐに褒めたい気持ちを抑え、ではお手並み拝見とばかりにわざとイレギュラーな要件をだした。

「夕食の前にお茶を頂きたいですねぇ。勿論ユナの淹れたものを」


「かしこまりました」

静かに歩いて準備に向かう様をジェイドは愉快そうに見つめ、ソファへ座った。

フィリップが夕刊や1週間分の届いた手紙などを持って
ジェイドに報告した。


「随分と練習に励んでおられましたよ。

ジェイド様のご帰宅を喜んでおられましたが、どうやら感情を抑えているようですね」

「へぇ……しかし直に賑やかさが戻るでしょうね」

ジェイドとフィリップは頬笑みながらユナの出てくる方を見た。




「お待たせ致しました」

夕食の前なので甘さも控えめなスッキリとした味わいのハーブティーを淹れると、慣れた手付きでジェイドの前へ差し出した。

ジェイドは香りが立つカップを手に取り一口飲むとソーサーへ戻す。

そばで緊張しながら立つユナはジェイドの反応が気になってしょうがないようだ。


「ユナ」

「は、はい!」

急に名を呼ばれ肩がびくりと上がる。



「出迎えから今まで全て完璧ですよ、よく練習しましたね」

「!!」

ジェイドの言葉に感激したユナは言葉にならない様子でフィリップやジェイドを交互に見ては赤い顔をして頷いた。

おそらく喋りたい気持ちを我慢しているのだろうと察したジェイドは笑った。
「肩の力を抜いて結構ですよ。
少々賑やかなくらいが貴女らしいですから!

今日は一緒に夕食を取りましょう」


「はい!やったぁ!」


早速いつもの様子に戻ったユナの言葉を聞いて再び吹き出したジェイド。側でフィリップもクスリと笑った。


基本はしっかりできているらしい。
久しぶりに自宅へ帰ってきたら落ち着きたいのだ。そんな雰囲気を出してくれるフィリップのもてなし方は勿論良いのだが、しかしユナの明るい笑顔でもてなされるのもまた良いものだとジェイドは感じた。


部屋のあちらこちらに飾られた花はユナが選んで生けたのだろう。
正直に言えば自分の趣味ではなかったが、色彩豊かなセンスは女性らしく華やかで良いとも思う。


今まで自分が良いと思ったものが全てだったジェイドが初めて他人の色に染まるのも良いと思えたのだ。

そんな微妙な心情の変化を一番に驚いているのはジェイド本人よりフィリップだった。





食卓はこの屋敷で働く全員が顔を揃え、お喋りなゲイリーとユナが賑やかな空気にしてくれた。



ジェイドを始め、
皆がこのとき思っただろう。


ユナがここに来てくれて明かりが差した、と。
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