TOA 3
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生きるためとは言え国を裏切る行為は軍人として許されるものではない。まだ除籍はされてはいないがサラが今後軍部に帰ってこられるのは難しいだろう。
しかし、サラが生きたいという意思を持ち幸せになることを求め人生を全うすることができれば良いと思う。
ジェイドのそんな思いがピオニーには伝わった。親友としてジェイドの心の変化に嬉しく思い自然と口角が上がるのだった。
「早く会わせてやりたいな」
「……」
「サラとユナをだよ。
それにお前とユナもな!」
ニヤニヤと隠す気のない笑顔を向けるピオニーを一瞥したのち、ジェイドはカチャリと眼鏡を正す。
「……で、ちゃんと働いてるんです?全く姿が見えませんが」
「あー、それがさぁ。俺の失敗でユナはとばっちりを食ってな。裏方の仕事ばかりさせられてんだ」
「……」
ジェイドは軽くピオニーを睨んだが、自分が知恵を絞って介入したとしても一筋縄でいかない宮廷での人事に口を出しても無駄に終わるとすぐに諦めた。
これもまた、ユナを信じて、 立ち上がるのを待つしかない。
────
「書類はここの建物でよろしいのですね?
ご案内ありがとうございました!」
結局色々と巡ってジェイドについて質問を遠慮なくした後に満足したのか深々とお辞儀をするユナ。
下心から声をかけた男はなんとか色気のある話でもしたかったのだが会話が食違い、失敗に終わったと言える。
「あぁ、とんでもない。建物の中にいる誰かに預けたらいいよ」
「はい!では、いってきます」
元気に駆け込んでいくユナの後ろ姿をため息混じりに手をふる男。そもそも年の差があり自分とは合わなかったのかもしれないと、諦めた言い訳を頭の中でいくつか探した。
「あの…申し訳ございません。道をお尋ねしてもよろしいですか?」
そんな男に、またもや知らない女が声をかけた。ユナとは違い、落ち着いた大人の女性らしい声だ。男は懲りず嬉々として振り向く。
「はいはい。どんなご用で?……っ!」
振り向き様攻撃され静かに拘束された男は女の顔を拝むことなく薬で眠らされた。意識が遠のく瞬間、勤務中に浮かれていた事を
後悔したに違いない。
薬瓶を懐にしまったその謎の女は素早く男を担ぎ上げ誰にも見られない建物の陰へと隠れた。まったく隙の無い動き、冷静な表情。帝国研究所の警備が手薄になることを予知して浸入した計画性があった。
しかし、一つ計画になかったこと。
女はちらりと先程ユナが入って行った建物の方を見て呟いた。
「どうしてこんなところに……ユナ……」
他人に決して見せることのない寂しげな視線で見つめる。しかしそれは一瞬だけだった。すぐに踵を返し女は目的へ向かう。
──「はぁ、寄り道したら遅くなっちゃった」
研究所での用事を済ませたユナは駆け足で宮殿へと続く道を進む。休憩時間などと疾うに過ぎていた。
夕方から本格的に祝賀会が始まる。何日も前から準備をしてきた最も忙しいであろう日。
『遅れるなんてきちんと自分のスケジュールを把握してない証拠!』
メイド長のマゼンタに言われるであろう言葉が頭によぎる。いくら休憩時間中だったとは言え、無茶があったと反省した。
「ど、どうしよう。近道しちゃおっかなー…」
二股に分かれる道で一度止まる。
一方はいつも通るよく知った道。この時間なら人通りもあるであろう。
片方は軍部の塀に沿って作られた人通りも灯りも少ない道。
視界に入る印象的にいつもの道に入りたいところだが、やはりまたマゼンタの言葉が頭にちらつくのだ。
意を決して近道へと向かう。
「ちょっと待ちなさい!」
「へっ!!?」