TOA 1

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「最近青い軍服の男が出入してるようだが、どういうつもりだ?」

30代の貴族、エドガー・メイジャーは怒りを孕んだ様子で仁王立ちしていた。
スザンヌは慌てて一番上等なソファを薦め、彼の怒りを増やさぬよう細心の注意で茶を用意した。


彼の父はグランコクマでも有名な貴族のルボルト・メイジャー伯爵。
伯爵は一代で領地を広げ、資産を増やすなど優れた人物であった。かつて宮廷内でも確固たる地位を築いていたものだったが、それは過去の栄光。
年老いた伯爵は、後は長男に爵位を引き継ぐだけだと周囲に言い、穏やかに死を待つのみだけだった。

長男は父のように優れた人物ではなかったが、長男というだけでいずれ爵位を引き継げる為自身の将来は安泰だ。
次男、三男はいずれマルクトの小さな領地をもらいそこで地方貴族として生きていくことになるのは決められた運命であった。


おまけに面倒な孤児院の管理を任され、三男のエドガーは常に不機嫌で不満ばかりを吐いていた。

「軍人さんは善意で屋敷の修繕をしてくださってます」
「私が管理を怠っているとでも言いたいのか?」

ギロリ、とエドガーがスザンヌを睨んだ。
「いえ、滅相もございません」
スザンヌは取り繕う余計な言葉も発する事なく頭を下げたままだ。

「いいか、今度軍人が来たら私が直したと言って追い出せ。詮索されても言葉を交わすな、わかったか!」

「かしこまりました」

「それより、ユナはどこだ!茶などいらん。ユナに酒を注がせるんだ!」

「ただいま呼んできます」

スザンヌは眉ひとつ動かすことなく、彼の言った通り動いた。
逆らったり自分の考えを持つことは許されないと、長年学んだ経験からであった。



呼ばれたユナは酒を持たせられ近くに寄った。
「エドガー様、ご機嫌麗しゅう存じます」
「おぉ、待ってたぞユナ。今日も美しい。さぁ隣に座りなさい」

「はい失礼致します」

エドガーは酒を注がせながら自身の趣味で伸ばせたユナの長い髪を撫でるのが至福の時だった。

ユナは静かに目を閉じ、自分がこうしている間は彼は誰にも乱暴をしないと理解し耐えた。


(私が我慢したら、皆が幸せになる)
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