TOA 1

□5
1ページ/7ページ

議会ではピリピリとした空気の中ではあったが皆諦めたのか大した混乱はなかった。
しばらく前から扉越しにジェイドが返ってきた部下と手短に報告をしていた。

その声は回りの声に欠き消され聞こえてこない。

エドガーの兄、メイジャー家の次期伯爵はじわりと汗をかいていた。
あの悪知恵の働くエドガーのことだ、大人しく孤児院の管理などするわけがない。
(皇帝は如何なる処分を下すのだろうか…)
腕を組み、眉間に皺を寄せた皇帝を
ちらりと見た。


同じような気持ちでいる貴族らはたくさんいただろう。ため息をついたり、皇帝の顔を見たり、足を揺らして落ち着かない者もいた。


ジェイドが待っていた一人の部下の声を捉えた。
「遅くなりました。どうやら私が最後のようですね、副官のマルコです」

聞き終わるとジェイドは怪訝そうな顔をした。それを側で見ていたアスランがジェイドに耳打ちする。

「扉番は交代してさしあげます、さぁ陛下の元へ行ってください」

「感謝致します。失礼」
そう言って陛下の元へと向かった。
アスランに代わってもジェイドと同じく誰も扉を突破しようとは考えなかった。




ジェイドがピオニーにだけ
聞こえる声で報告をした。
途中で「はぁ!?」という怒りに満ちた皇帝の声に貴族達が肩をびくつかせる。

ジェイドは報告が終わるとピオニーに何かを指示され早足で議会室から出ていった。


バン!と、ピオニーが手前にあった机を叩く。

気まずい貴族達は彼の額に血管の青筋が浮かんで見えた…ような気がした。


「今すぐこの報告をここで話していいか!?あまりにも多すぎる悲惨な報告に気分を害した!」

獅子のように吠える皇帝。怒りの感情に支配されかけていた。
ジェイドという唯一のストッパーがいない。参謀総長のゼーゼマンが重い腰をあげ止めに入る。
「陛下、おやめください。このような通常でないやり方では賛成を得ても臣下の心は離れていきますよ。陛下は独裁者ではない。そうでしょう?」

ピオニーにじぃさんと呼ばれるゼーゼマンは子を諭すように 語る。先代から長く遣える彼はピオニーにとっても父や祖父のような存在である。


「わかっている!ではこの報告を私の中で留めることにしよう」

皆、ほっと胸を撫で下ろしたに違いない。

「しかし、この結果を見てお前らの忠誠心は一目瞭然だからな!正すことができるか否かは今後じっくり見定めて処分を決める!」
ギロリと睨み臣下を見下ろした。


ここにいる半数の者より若いであろう皇帝だったが、その姿は威厳に満ちた一大国の皇帝に違いなかった。

士の時代は終わり、我々貴族が国を動かすと。
若き皇帝の軟化政策を見下していたに違いない。

しかし今日の一件で皇帝は一筋縄で動かせない、簡単な皇帝ではないことを肝に命じた。

それは軍部の者も同様で。


「陛下の仰せのままに」
ゼーゼマンは代表して皇帝に頭を深く下げた。



「よって、明日の議会で再び採決を取る!今日は解散だ」

アスランがそれを聞き入れ扉を解放した。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ