TOA 1

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早朝、貴族の邸宅が並ぶ一画に怒声が響き渡る。
「エドガー!いるんだろ、エドガー!出てきなさい!」

メイジャー家の跡取りであるスタン・メイジャーは何度もベルを鳴らすが一向に出てこない弟のルボルトに怒りを露にしていた。
兄弟仲の悪いエドガーはメイジャーの街屋敷から離れたところに専用の邸宅を建てて住んでいる。

二日前から母家に来いと伝えてあるのに来ないので、長男である自分がわざわざ足を運んでいた。仕舞いには固く閉ざされた戸を直接叩いてみる。

ようやく出てきたのはエドガー専属の使用人の男だった。
「スタン様、申し訳ございませんが主人は未だ帰ってきておりません。どうかお引き取りください。」
悪びれた様子もなく暗い表情で淡々と喋るこの使用人もスタンは気味が悪くて大嫌いだった。弟のエドガーもこの使用人も何を考えているのかわからない。

「またケセドニアか?」
「作用でございます」
「ちっ…帰ってきたらすぐに私のところへ来いと伝えろ!孤児院の件で話がある」
「かしこまりました」

怒りに満ちた足取りで帰ると、自分のメイドが心配そうに迎えた。
「エドガー様とお会いできましたか?」
「あいつに様などいらぬ
お前の主人は誰だ!」
「スタン様一人でございます」

この美しいメイドは最近入ってきたばかりで自分のお気に入りだ。
「エドガーは何故ケセドニアに行かれるのでしょう」
「10年ほど前から行き来しておる。あいつの事だ、金儲けであろう」
「でも邸宅を見ても、身なりもとても質素ですわ」
「知らんし興味もわかぬわ!
あいつの話は終いだ。こっちに来い」
美しいメイドの腰を強引に抱く。
「あ、奥様にまた叱られてしまいます」
「構わん。静かにしていろ」
メイドは目を閉じ、されるがままだ。よく命令に従う良い女である。
美しい玩具を手にいれスタンは夢中になっていた。







孤児院の朝は賑やかだ。
まずスザンヌとユナが起きて大勢の朝ごはん作りをする。しばらくすると良い匂いに連れられ子供達が起き出し、それぞれ支度や与えられた手伝いをする。
「ジェイドおじちゃんどいて。そこ掃除する」

「……おじちゃんと呼ばれる年齢に見えますか?良い眼科医を紹介しますよ」
そう言って3歩下がり冷たい視線を送る。彼は子供が好きではない。
「お、じ、ちゃん!俺は両目2.0だ!」
「……」

低血圧気味なので朝からの賑やかさは苦手だったが、三日目となれば次第に慣れてきた。
無理に子供達に構うことはない。
マルコはそれができず苦労しているが。

(慣れない場所での長期調査は嫌なものですね)
本来このように住み込みで調査したり長い時間軍部を開けてしまう事は部下に頼むことが多かった。
しかし自分がやってみて、普段と180°違う生活に身を委ねるのは苦痛だとわかった。


(……彼女もうまくやってるんでしょうか)

部下の中の紅一点である、一人の女性軍人を思い出した。少し前にメイジャー邸の潜入捜査を命じていた。

「みんなー!朝ごはんできたよー!」
ユナは今朝も元気にくるくると働き、賑やかさの中心にいた。


昨夜自分の前で暗い表情で立ち去るユナを思い出した。
心配したが、逃げるように離れていったので追いかける事ができなかった。
しばらくするとピオニーに抱きかかえられ、彼の胸の中でスヤスヤと眠っていた。


(女性は男が思っているより強い)
ましてや心配している彼女は軍人だ。彼女からの報告を気長に待つことにした。
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