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『愛するリタへ。
私がこんな仕事をしていたからお前にいつも苦労をかけてすまなかった。死んでも迷惑をかけるであろう事を許してほしい。

遺産は二つに分けている。ひとつはお前と娘のシンシアが幸福に生きる為の遺産だ。自由に使ってくれ。
そしてもうひとつの遺産は私の人生の過ちによりたくさんの人間を不幸にしてきた償いに使って欲しい。

死んでもなお、我が儘を言う私を許してくれ。
たくさんの人を殺めてきた。地獄の底にいるであろう私だが、お前は幸福に満ちた人生を全うし天国へ召されるだろう。あの世で会えない事を残念に思うが、優しいリタの幸せを願う。愛しているよ。ウィルハイムより』


日記の表紙の裏にウィルハイム氏の手紙が張り付けてあった。


ND1980/12/29
ウィルが息を引き取ってから年は五周もした。久しぶりにグランコクマを訪れた。 娘と墓に花を手向けに行く為に。
住み慣れた我が家は何故かメイジャーの領地となっており、許可を取らねば入れないそうだ。
憎らしいが頭を下げて入らせてもらう。
哀しみから目を逸らしグランコクマを離れ、メイジャーから逃げ続けてきた。しかし、もう終わりにしようと思う。

この手紙を見つけたからだ。
ウィルは地獄にいると言うが、
この先の私の行い次第では彼を天国へ連れていけるのではないだろうかと信じて。

その為ならなんだって我慢をしよう。
まずはメイジャーに頭を下げる事だ。この地で戦争孤児を救い、孤児院を経営しながら生きていく事を決めた。


ND1980 /12/50
孤児院の建設の為に、家族の思い出が詰まった我が家を取り壊す。
私が涙を流すと優しい娘は背中を撫でてくれた。二人で立派な孤児院を作っていく事を約束する。


ND1981/3/46
ついに完成した。子供達がのびのびと遊べるように平屋で庭を広く作った。
まずは5人の孤児を引き取った。
どの子も可愛い。家族が増えたようで嬉しい。


ND1982/4/1
娘のシンシアはよく働く自慢の娘だ。もう成人の儀を済ましたにも関わらず、恋人はおろか結婚も考えていないようだ。可愛い子供達がいるから十分だと話している。
孫が見てみたいと寂しく思った時もあったが、まぁいい。
子供達がさらに10人増えた。

ND 1983/13/3
メイジャーを許さない。
娘は渡さない。

ND1983/13/40
マルクト帝国銀行ケセドニア中央支店12番652311
困った時に使いなさい。
父があなたの為に残したもの。

ND1983/13/45
さよならの時。
縁を切る覚悟で娘を見送る。辛いがこれでいい。幸せを願えば必ず思いは届く。シンシア、幸せになれ。




この先の日記はリタ一人で悪戦苦闘しながら孤児院を経営していく姿が書かれてあった。

「シンシア…現在生きているならば57歳。ケセドニアにまだいるでしょうか。写真でもあれば良いのですが」

ジェイドはまだ読んでいない日記の先をパラパラと捲り、写真等挟んでないか確認する。
一枚ひらりと日記の間から写真のようなものが落ちた。
集合写真のようだ。20人くらいの子供達と大人が二人。リタとシンシアだった。
残念ながら建物全体を写したかったのだろう、人物は小さく写され顔を確認するのは難しかった。

しかしふと、何かに気づくと目当てのページがあるようで勢いよく捲った。


ND1994/9/30
孤児院の前に毛布にくるまれた新生児とも言える幼い赤子を保護。信じ難い内容の手紙と共に。
手紙に書いてあった名と出生日は見なかった事にし、
名をユナとする。
しかし、私に育てられるのだろうか。


「これは…」
ジェイドはここまで読み終わると、
小さく呟き、そして執務室を出た。
向かう先は参謀総長の部屋へと続く長い廊下だ。ここには歴代の参謀総長や元帥など名将の肖像画が飾られてある。
ひとつひとつ、確認して目当ての者の前で立ち止まった。
隣にはマクガヴァン元元帥の 若かりし頃の姿が飾られている。
師弟と聞いていた、だから仲良く隣に飾られていたのか。

「ここにおられましたか…」

ウィルハイム・ローゼン元元帥の肖像画だった。おそらく44歳の若さで参謀総長に任命された時に描かれたのだろう。
白髪の紳士ではない、威厳に満ちた黒い瞳でこちらを見つめる黒髪の軍人であった。
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