TOA 1
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「え〜!!何それずりぃ!」
朝から聞きたくない甲高い声が脳に響き、ジェイドは不快感を露にしている。
「まったく…煩いですねぇ」
「おじちゃん俺たちにもチケットくれよ!」
朝の支度を済ませた10歳前後の子供達がジェイドを取り囲んでいた。
宮殿ツアーに行ける子はまだ学校に行けない小さな子達ばかりで、大きな子達が不満をぶつけていた。
すかさずユナが助け船を出す。
「だから、学校がある君達は仕方ないんだから、ねぇ諦めてちょうだい。ジェイドさん困ってしまうでしょ」
「じゃあ、学校休むよ!」
「まぁ!なんてこと!」
行ける身なので怒れなかったユナだが、ついに爆発しそうだった。
無理もない、孤児が学校に行けるというなんて本当に希な事だ。どれだけそれが大変な事であろうか。
側で見ていたジェイドはすぐさまユナの気持ちを理解した。
「おや、学校はお嫌いですか?」
ジェイドが子供達に真剣な表情で語りかける。それだけで大抵の子は怯んだ。
しかし中には強者もいるようだ。
「お、俺勉強好きじゃないもん!」
「よろしい。では、一生勉学に励むのはお止めなさい」
カツリ、と
一歩その子供の前へ出る。
「私の知り合いにもいました。一生勉学をしなかった者が。いろんな理由があってできない人もいます。しかしその知り合いは単なる怠け者でした」
あまりにもおどろおどろしいオーラを放つジェイドに子供達が一歩下がる。
「聞きたいですか?その者の末路……」
囲んでいた子供達はブンブンと首をふり、蜘蛛の子を散らすように逃げた。
「お、お見事でした。ジェイドさん」
怒らずして子供達を退散させたジェイドにユナは感嘆した。
「いえ、私にはこれくらいしかできませんが。あなたやスザンヌさんの気持ちを察するとつい口を出してしまいました」
「……」
頭に血がのぼってしまっていたことをユナは急に恥ずかしく思えた。
「それにしてもこれだけの人数を学校に行かせるのはさぞ大変でしょう」
ユナは苦笑いした。
「おばぁちゃんの方針で、何とか工面してでも学校は最後まで行かせようとしています」
「素晴らしいですね。さすがリタさん……いえ、あなたもその考えを受け継ぐ素晴らしい方ですよ」
「いえ、そんな大した者ではないです。単に私も学校に行かせてもらって
ましたからね。皆にもそうさせてあげたいだけです」
直球で褒められて恥ずかしいのか、伏し目がちでユナは言った。
二人の様子を見ていたのか、スザンヌが後ろから声をかけた。
「エドガーが孤児院に顔を出し始める前はもっと余裕があったんですけどねぇ。借金しなくとも子供達を学校へ行かせていましたから」
「そう考えるとやはり、エドガーは運営費をせしめていますね」
「許せないです」
ユナは唇を噛み締めるように口を一文字に曲げた。
スザンヌがそんなユナを見て自身の表情は悲しみを纏う。
「ユナ、今日くらいは大変な事も忘れて楽しんできなさい。ほら、美人が台無しよ」
スザンヌは優しくユナの頬に触れた。
「スザンヌ……。ありがとう」
「では、ジェイドさんユナをよろしくお願いします」
「えぇ。用意ができ次第行きますよ」
ジェイドはニッコリと微笑んだが、内心はどう思っているのかこの場にいる者は誰もわからないだろう。
(……この状況、さすがに騙しているのは気が引けますね)
ピオニーに腹黒いだの冷徹人間だの言われている事を
思い出し、しかし自分も人間だということを自覚した。