TOA 1

□17
1ページ/6ページ

「……。ここは?」

自分の知らない間に修道院に預けられる事になったユナは、目を覚ますと見知らぬベッドや風景に眉をしかめた。

眠っていた部屋を出ると、ローレライ教団の制服を着た者達がいたのでここが修道院であると思い出した。

「すみません!私礼拝堂で勝手に寝てしまったんですね!お世話になりました、すぐ帰ります!」

ユナの慌てる様子を見て、エドガーから事情を聞いていた教団の者達は引き留めた。

「エドガー様からしばらくここで住むよう伺ってますよ。式までの間は私共がお世話させていただくのでご安心下さい」

「えぇ!?ここで!?
な、何故でしょう……。しかもお世話なんてそんな、私なんかに」

皇帝が参列するくらいの式であるから高貴な女性であると勝手に勘違いしている教団の者達は恭しくユナを部屋に戻した。


「え、どうしよう……。エドガーの屋敷に乗り込む気だったのにな……」

再び部屋に一人きりになったユナは、ふと自分の鞄を見つめた。
中にはあの短剣が入っている。

一瞬で黒い感情が体を支配する感覚に抵抗し、頭をふった。

(ここは神聖な場所…ダメだ)

頬を一つ叩くと、再び部屋を出た。


「あの、住まわせていただけるのなら何かお手伝いをさせてください!」

はつらつとしたよく通る声は律士を始めその場にいた者達を驚かせた。
皆が頭の中でマリッジブルーではなかったのか?と疑問に思った。

「私じっとしているのが苦手で、何でもします!
あ、朝餉の準備なら私得意ですよ」

半ば強引に仕事を見つけくるくると働くユナに初めは恐縮していたが、皆ユナの人間性に心を許し、一日で修道院に馴染んだ。



エドガーに内密にするよう頼まれていたので、外部の人間と触れない施設内で仕事をさせられていたが、ふと窓から礼拝堂に入る為に列をなす人々がユナの視界に入った。


「ひっきりなしですね。律師様も大変そう……」

「皆の幸せや世界の平和を導く為に励んでいますわ。どんなに大変でも苦に思わないのです。
でもユナ様の御気遣い嬉しく思いますよ」

そう言ってお辞儀したのは、自分より年の若い少女だった。教団の制服を着ていないのでどうやらまだ見習い生のようだった。


「お若いのに、素晴らしい心持ちですね。
あ、様なんて付けなくていいですよ?……皆私なんかに
遠慮しないでいいのになぁ」

「ユナ様は大事なお客様ですもの!……あ、律師様が落ち着きましたらユナ様ご自身の預言をお聞きになりませんか?」


「私、孤児だから名前も生年月日も本物では無いの。だから実は誕生日の預言も詠んでもらったこと無くて…」
少女の誘いに、有り難くも思ったが苦笑いで答えた。


「えぇ!?一度も無いのです?」
「……はい、すみません」

「お可哀想に、今現在のお名前で十分預言は聞けるのですよ。お知りにならなかったのですね」

「そうなんですか!?」

「はい、ユナ様がそのお名前で生きていく人生を預言するものですから」

ユナは少しだけ寂しげな目をしたが、すぐに笑った。

「アハハ、あと三日ほどで名前が変わっちゃうんだから今聞いてもしょうがないか!」

「あ、そうでした!すみません。
では、式でお二人の幸せな未来の預言をお詠み致しますね」


「……はい。とても楽しみにしています」

ユナの言葉と表情はやはり寂しさを含んでいたが、年の若い少女は特に気にする様子はなかった。



(……ユナとして
生きていく人生、か。

もしお母さんが付けた名前だったら……全く別の人生を歩んでいたのかな)



そう考えると込み上げてくる切なさに堪えきれず足早に少女の前を去った。

「ごめんなさい」


(違う!……おばあちゃんがくれた名前。私幸せな人生だった。

ユナ・メイジャーという名になる日から不幸を背負うのよ……)
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ