TOA 1

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「メイジャー伯爵、突然の訪問をお許し下さり感謝致します」

「アスラン・フリングス将軍の素晴らしい噂は予予聞いておりました。会えて光栄ですよ」




気難しい人物なのかと予想していたが、ルボルトの柔らかい物腰にアスランは拍子抜けした。



屋敷に着くまでに見てきた豊かな牧草地帯の広がる景色を思い出す。
メイジャー家の領土をここまで大きくしてきたのは間違いなくこの老人だ。

メイジャー家の繁栄の為にローゼン家に執着してきたその強欲は消えてしまったのかと、アスランは感じた。



「今日は三男のエドガー様の結婚について申し上げる事がございます」


挨拶もそこそこに、アスランは本題へと切り込んだ。


「えぇ、陛下も来てくださると聞きまして、皆が大変喜んでおります。

……しかし将軍がその件で何用ですか?」



少し緊張するが、時間は無い。アスランは包み隠す事なく今までの事を話した。

気分を害されるだろうと、予想はしていたが期待もあった。

噂で聞いていた厳しさも今は影を潜めているような老人だ。





しかし、花嫁がリタ・ローゼンの娘であると告げた瞬間、アスランは自らの期待が軽薄な考えだったと悔いた。


「な、なんと……孫がおられたか!」



立ち上がろうとするルボルトに、隣にいた婦人らしき人物が優しく支えた。

「旦那様、急に立ち上がっては足に負担がかかります」

しかし婦人の腕を振り払うルボルトの目は輝きが増したようにも見えた。




アスランはため息をつき厳しい目でルボルトに忠告した。



「しかし、その孫とは貴方の孫でもあるのです。

……ノーラン・メイジャーとシンシア・ローゼンとの間にできた子です」


身を乗り出して聞いていたルボルトは驚きを隠さず、よろよろと後ろの椅子によろめいて座った。



「……そ、それはまことか……。


いや、そうだ。そうに違いない……」



疑いから確信に変わる様を見たアスランは皮肉った。


「……繋がりましたか?
貴方の領土が変わらず豊かであることと、孫がいることが」


「……!?」

その皮肉に一番に驚きの顔をしたのは婦人で、ルボルト本人は澄ました顔をしている。


「伯爵、ただ喜んでいるだけでは済まされませんよ。

貴方の孫と三男が結婚をしようとしているんです。


この話を聞いた今、父親としてすべきことがありますよね?」



「……」


「陛下の御前です。

式の前に即刻中止にするべきですよ!今ならまだ間に合います」


畳み掛けるアスランの言葉を気にする様子はなく、ルボルトは少し笑みを浮かべた。



「私とエドガーの血縁があるのかどうかもわからなくてね。

ノーランと奴は兄弟ではない可能性もある」


その態度と言葉にアスランは珍しく怒りを抑える事ができなかった。



懐から出した毛髪の音素鑑定書を目の前のテーブルに叩きつける。



「何故そのような嘘がつけるのでしょうか!」


ルボルトはちらりと鑑定書を見て腕を組んだ。アスランに何を言われようが傲慢な態度は変わらない。


「何故私を責める。

その紙持ってエドガーの所に直接言えばいいのでは?」



「……いいのですか?
このまま息子と心を通わす事なく離れる事になっても」


離れるとはもうすぐ訪れるであろう死を意味するような言葉でもあった。

老いたルボルトに告げるのは酷だが、厳しく言わないと彼の心は動かないと思ったからだ。




「……」


「エドガーは貴方自身の言葉を求めていると思いますよ。


では、私の話は以上です。失礼しました」


アスランは心配そうな表情の婦人にも会釈をすると、部屋を出た。


去る前のルボルトの顔を見て、失敗だったと感じため息をついた。
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