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『そう、ついにユナの御主人様は行ってしまわれたのね。
寂しい?心配?でもカーティス大佐ならきっと大丈夫よね。私からも無事にお勤めあげ、帰ってくることを祈ってます。
フローラより』
ため息をつきながら友人からの手紙を読む。いつも心配してくれるフローラに心を打たれる。
「……ありがとう、でも立ち止まっていられないのよね!うん!」
独り言にしては勢いよくそう言うとユナは元気に自室を出た。
ジェイドがグランコクマから発って既に1週間は過ぎていた。軍部の状況や噂なんてこの屋敷にいては何も聞こえてこないのだから、きっとうまくいっていると全て前向きに想像できた。
「おはようございますフィリップさん!」
「おはようございます」
はつらつとしたユナとは違いただ、柔らかく笑むのは執事のフィリップだ。ジェイドがいない間の屋敷の管理は全てフィリップに任されている。
「今日はいよいよ旦那様と奥様がいらっしゃるんですね!私、なんだか緊張で朝からソワソワしちゃってます」
「お二人とも優しい方ですから大丈夫ですよ」
ジェイドを養子に迎えたカーティス夫妻は高齢で、普段は領地に住み家督の殆どはジェイドに譲っている。
しかしジェイドも忙しい身なので時々こうしてグランコクマに訪れては貴族の役目を手伝っているのだ。
「だけど、びっくりするだろうなぁ、こんな若い子が雇われるのは久しぶりだろ?」
キッチンから三人ぶんの朝食を運びながらそう話すのは料理長のゲイリーだ。ユナの表情がさっと曇る。
「え!?旦那様は私が雇われてるの知らないんですか?……ど、どうしましょう気に入られなかったりしたら……」
捨てられるかも!?と頭に浮かんだ最悪の顛末がパニックを起こした。
「ははは、それはないから安心しなよユナちゃんみたいな子を切実に探しておられたのはお二人なんだから!な、執事長!」
「……えぇ」
フィリップは何故だか苦笑いを浮かべて自分を心配げに見つめてくるので、ユナは首を傾げる。
「?……」
それから、カーティスの家紋が入った馬車が二台到着したのは昼下がりの午後だった。
「おかえりなさいませ。旦那様。奥様。
長旅の疲れを癒す準備は整っております、こちらへどうぞ」
「あぁフィリップ。いつもありがとう」
馬車から降りて来たのは共に白髪で笑い皺を深く刻んだ仲睦まじい夫婦だ。
フィリップの言う通り優しげな雰囲気が彼らを包む。
玄関の前で遠目に見ていたユナはそう感じていた。
「フィリップ、何か変わった事は?」
「ジェイド様のご意向により、新しくメイドを雇っております」
「あぁ、手紙で読んだよ」
「それで、そのメイドはどこに?」
二人の会話を遮るように隣にいた婦人が期待に満ちた瞳で辺りを見回した。
「玄関前に待機させています」
(わ、わ、こっち見てる!)
フィリップの仕草からきっと自分を紹介しているのだとわかって慌ててお辞儀をしたユナ。
「……フィリップや、あれは随分若く見えるんだが、私の老いのせいか?」
「いえ、二十になったばかりと聞いていますよ」
「まぁ!」
(……え、何話してるのかな?)
カーティス夫妻の驚く顔やニコニコと笑う顔に困惑するばかりであった。