TOA 3

□3
1ページ/8ページ

「西の拠点は全て制圧!キムラスカ軍の援軍は断たれたようです!」

「補給線の一部を壊滅しました!」

マルクト軍の基地に置かれた帳の中に入る兵士ら。総大将であるジェイドへ戦況を報告するその口ぶりは明るい。

砂漠の中にある遺跡に伏兵を配置し、時には自らも前線へ駆けたジェイド。地の利を生かした戦術は攻守ともに優れていて、自軍の犠牲を極力控えることにも成功した。


「では、予定通りこのまま一気にマルセル・オスローの陣まで叩き込みますよ。オラクルを壊滅できればキムラスカ全軍の士気も下がるでしょう!」

「は!」

ぞろぞろと出ていく兵士らの顔は明るい。しかしジェイドの傍らにいたままの副官マルコだけは違った。

「サラの情報は全く入って来ませんね……」

そんなマルコを見兼ねてジェイドは肩を叩いた。

「戦の片手間しているんですから、あまり期待を持たなくて良いんですよ」

「……はい」

親友であり、サラのジェイドへの想いを痛々しい程に知るマルコはそう言われても複雑な表情のままだった。

亡骸は見つからないし、捕虜になっているとするならキムラスカ側から交渉がある筈だ。

しかし何も音沙汰もないので、日が経つにつれ軍部内ではサラの寝返りが有力視されていた。

ジェイドは顎に手を当て考える仕草をとる。

「……しかし、サラが向こうについたとは考えにくいですよね」

「?」

マルコはジェイドの言葉の続きを期待した。同じく、サラが裏切ったなど思いはしないだろうがジェイドがここ戦場で感情的になったり短絡的な答えを導き出さない事を知っていたからだ。


「サラならもっと賢いやり方をしてくるでしょう?ここまで我々が簡単に勝ち進んでいる状況がおかしいと思いませんか?」

「……はは、確かに!……そうですね、はい」


圧勝と呼べる程これまでの戦局はマルクト軍の有利な方に進んでいたのだ。サラが裏切ったと決めつける者はきっと彼女の実力を把握していなかったのだろう。サラを信頼し重宝していたジェイドがそう思うのなら間違いないと、マルコはやっと納得したように笑った。

ジェイドは別にマルコを安心させたくて言った訳では無いようで、気にせず再び深く思考の世界へ入っていった。


(……サラが突然姿を消す程の事だ。一体どこで何を……)




────────起伏の無い砂漠の地にポツリポツリと存在する砂岩。一際大きく山のようなその上に立つ二人の人物は眼下に広がるその光景をじっと見つめていた。

マルセル・オスローの軍とジェイドの軍が激しくぶつかり合うその様子。戦術に長けた者から見れば、すぐに決着の予想はできた。


「預言に抗った者は必ず絶望するだろう。小さな堤防で流れを変えたとしても大きな運命の流れには逆らえないとね。」


「小さな堤防とは……?」

「君も知っているだろう、エドガーの築いた地下補給線」

「あぁ……はい。あれは皮肉でしたね。大佐が地の利を得たのはエドガーをそう仕向けた貴方のお陰としか言い様がありません。……しかし、何故?」


サラとヴァンの間に風が吹き抜ける。


「今までに何度か試してきたのだが、やはりその度にこの預言に毒された世界での人間の非力さを痛感するばかりだ」

「痛感したいが為に?……まさか、貴方が?」

ニヤリと口角を上げるヴァン。彼から世界を変える計画を既に聞いていたサラは、一瞬だけヴァンが迷っているように見えた。

「悲観はしていない。

預言はこの世にあってはならないものだと検証した結果を見せる為だと思いたい。君をどうしても我々の仲間にしたいのでね」

「……っ、そんな事のために?」

遠くでマルセルの叫ぶ声が聞こえた。
数多の犠牲者の顔が足元でこちらを睨んでいるような幻覚を見る。

マルクト軍の勝利の咆哮を耳に、サラは決意した。



「わかりました、そこまで仰るのなら貴方に着いて行きます……ヴァン・グランツ総長」
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ