TOA 3

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「シン兄ちゃんおかえり!」
「遊ぼうよー!」

孤児院の門を開ければすぐに朗らかな表情をした子ども達が来訪者に纏わり着く。彼らにシン兄と呼ばれるその青年は彼らの気持ちがよく分かる。刺激をくれる自分より大きな存在が好きで堪らなく、何でも真似して育った。自身もこの孤児院の出身として目の前の子達を蔑ろにしたい訳ではない。しかし、大切な用があるのだ。シンは一人ひとり健やかな頭に触れながら小さく謝った。

「悪ぃ、また遊んでやるからな」

そして足早に屋敷の中に入っていく。その場に残された子ども達は口々に不満を漏らすが、あきらめて散っていった。いつもなら諦めず執拗に追うのだが、求めなかった理由は、楽しい時間は他にも予想できたからだ。

「良いもんねー。どうせ今日もモグラ怪人来るもん」


子ども達の小さな変化と呟きにはシンの耳には届かない。




「スザンヌ!」

キッチンで作業をする姿を見つけたシンは怒りを込めて名を呼んだ。昔から変わらない、保護者代りの優しいスザンヌはシンの複雑な心境をいつも包みこむ微笑みで振り向いた。

「あらシン帰ってたのね。どうしたの?そんな顔して、
お腹でも減った?」

正論をかざす厳しいリタと対照的なスザンヌ。弱い自己を認められることや何でも他者を許してしまう優しさが今は尊敬もしているが、鬱陶しく感じる時もあった。思春期の少年時代は辛く当たったりもしたのだ。そんな若気の感情に振り回された行動は疾うに卒業しても良い年齢になった筈だが、この件に関しては自制はできなかった。

「まだ教えてもらってないことがあるみたいだな。
ユナに何があったか、
俺だからってはぐらかすんじゃねぇよ!」

「……」

血管が浮き出るほど強く握りしめていた拳をテーブルに叩きつけるシン。その手の中にあった紙は孤児院の近況を簡単に纏めて送っていたスザンヌからの手紙だ。それを悲しそう見つめ黙るスザンヌ。

シンにとっては酷な話。シンが今までどんな思いで努力し、この孤児院を救うことに心血を注いできたかスザンヌは知っている。しかし解決に導いたのはシンではなく、あの二人……。それをやはり話せばならないと思うと堪らなく悲しかった。


「……えぇ、話すわ全部」








─────────コツン、……コン。
療養中のユナはベッドに座り読書をしていた。窓から聞こえた異音に目を向けるとそこには頭の上に植木の葉をたくさん乗せたピオニーが申し訳無さそうに立っていて、窓を開けてくれとジェスチャーしていた。

「もー、またですか?」

ユナは小さく不満を漏らし、ベッド横に立て掛けていた松葉杖を手に取って立ち上がった。窓越しからピオニーと目が合うと、言葉とは真逆の嬉しい笑顔が溢れる。窓を開ければピオニーは慣れた様子で窓枠に跨がり部屋に足を入れた。

「ユナ、足の調子はどう?」

「もう大丈夫ですから毎日来てくれなくても結構ですよ?私を理由に公務のさぼりがしたいだけじゃないですか?」

おそらく子ども達に悪戯で乗せられた葉を一つ一つ取り払ってやる。


「死にかけたんだ、心配さ」

ユナの細い手首を自身の頬にあてるピオニー。ほんのりと伝わる温かさで生きていることを実感したかったのだろう。突然の触れあいにユナは体温が余計に上がってしまいそうで、ごまかす為に話題を変えた。

「し、死にかけてません。大げさです!
……それに知ってるんですからね。大騒ぎしたって昨日お見舞いに来てくれたアスランさんからも聞きました」

「……あー、うん。その騒ぎなんだけど。ちょっとまずいことになった」


「え?」

八の字に眉を下げたピオニーの表情の変化を間近で見てユナは嫌な予感がした。
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