TOA 3

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グランコクマの港に軍艦が入ると、港では帰還を待っていた者達が歓声をあげた。戦中はいつ誰が亡くなってもおかしくない状況であった。しかし今回の戦は師団長ジェイド・カーティスの見事な指揮により自軍の被害は最小限に抑えられたのだ。無事に帰ってきた家族と抱き合い、喜びを噛み締める者達。その中で前線を生き抜いた一人の兵が興奮ぎみに言った。

「カーティス大佐がいればマルクト軍はこの先も負ける筈がない!」

彼は足を負傷しているにも関わらず、明るく興奮冷めやらぬ状態だ。この勢いのまま今すぐにでも戦場へ戻り攻め上がりたい、そんな気持ちが読み取れる。負傷兵士らは悲観して嘆くことなく未来に希望を持ち、その表情は自信に満ちさえしていた。

「マルクト帝国万歳!」
「マルクト軍万歳!」

中にはもっと攻め入れたと思う者も数多くいただろう。しかし、好機だからとこれ以上キムラスカへ攻め込む事はなかった。今回の戦は不服だったと、キムラスカや加担したオラクルへ抗議することで収拾をつけると皇帝は判断したのだ。先に攻撃をしかけたのはそちらだと動かぬ証拠を掴めたからだ。現皇帝は無駄な戦争を望んではいない。
用を終えた軍艦の周りにはヒラヒラと祝いの紙吹雪が舞い散る。最新の砲撃装置でさえ色紙が所々に張り付き、それはひどく間の抜けた印象であった。





──「カーティス大佐の帰還はまだか」

進軍を望んでいた将校らは口々にそう言う。進軍させてもらえなかった鬱憤は祝賀で発散させたいのだ。貴族や街の人々も皆が英雄の帰還を待ちわび、盛大に祝う為に準備を進めていた。しかし主役であるジェイド・カーティスの姿が無ければ祝賀会などできるはずもない。



「宴に使う食器を数えて磨き上げをお願いね。あと、午後には料理長と打ち合わせをするから持ち場のリーダーは来るように」


マゼンタはメイド長として指示を出し通常の倍程動き回っていた。そんな忙しい彼女にひょっこりと一国の長が顔を出す。

「……ユナいる?」

「陛下〜?」

マゼンタは額に青筋を立てながら振り向くと、誰もいない手頃な部屋に陛下を連れ去った。(表向きはご案内したということになっている)


「ユナは一線から退いてもらっています。当事者の陛下があの子を探しにわざわざ来てはダメでしょう!
噂を誤魔化す為にどれだけ苦労したか、まさかお忘れになったのです!?」

部屋に入った途端にまるで子を叱るような口調のマゼンタにピオニーは幽閉時代のおっかない彼女の姿を思い出した。


「だから隠れて聞きに来たじゃないか。で、どうしてる?」

「……まぁ、良いタイミングで戦争が終わって殆どの者の関心はそっちに逸れましたが、そうは言ってもしばらくはあの子にとって試練の時になるでしょうね。

祝賀も表では手伝わせないように配置してます」

「え、それは大袈裟な!なんとかならないか?ユナにとってジェイドの帰還は特別なんだ。すぐに会わせてやりたい」

「ダメです!」

「えー、そこをなんとか!あいつらの喜ぶ顔が見たいんだ。お願いだよマゼンタ」

マゼンタは両手を腰にあて呆れた物言いだ。

「何のために一体そんな……。陛下にとってユナは大切な存在なのでしょう?
それなのにまるでカーティス大佐と……」


ジェイドとくっつけようと企むなんて、とマゼンタは最後の言葉は飲み込み心の中で呟いた。途中で気付いたのだ。長年遣え見守ってきたピオニーの気持ちを。
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