オリジナル

□卒業します1
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「わたし、先生に会えて嬉しかったんです!
あと、本当は朝のお礼がしたくて駅で待ち伏せしてました!
あと……あと、先生!本当は喋りたいこといっぱいあったんですーー!」


「はぁ?じゃあ喋ってくれよ。馬鹿だなぁ」

切羽詰まった風に叫ぶ東雲に、ようやく中学生の時の無垢な感じが見えて懐かしいと思えた。

俺は歩いた道を戻り、再び東雲の前に立った。

「しょうがねぇから聞いてやるよ、言ってみろ」

めいっぱい叫んで息を切らす東雲の赤い頬を見てると急にガキらしくて見えて笑えた。


「あの、その前に聞いてもいいですか?」

「なんだよ。早くしろ」



「……先生は、今も私の先生ですか?」

「……」



再び鮮やかに甦る桜の景色と、ピンク色の頬の生徒、東雲。

ここでまたあの質問か。

来年も再来年も同じ悪夢を見続けるのならここで訂正しておくのも良いだろう。

俺は今の正直な気持ちをぶつけた。



「ヤだよ、めんどくせー」

「!!」
東雲の驚いた表情からの満面の笑みは、あの時の悪夢を完全に消し去ってくれるほどの破壊力だった。


「なんで嬉しそうなんだよ、変な奴」


「ふふ、だって先生と同じ位置に立ってることが嬉しいんです」

「そうか」

二年越しにようやく理解できた。東雲は卒業して俺と対等になりたかったんだな、と。

しかし、それは何故だろうか。
はたと疑問に気づき、考え込むが答えは簡単だった。




「だって、三年間海潮先生のこと好きでしたから!」



「……へっ?」


間抜けな面をしているに違いない俺の前で、美人に成長した東雲があどけなさを含んではにかんだ。


「ようやく言えてスッキリした!

……先生、じゃあ!お元気で」


くるりと踵を返し、駆け足でアパートの二階へと上がって行く東雲の足音を聞きながら、俺は暫く立ちすくんだ。


教師らしくない言葉に喜ぶ東雲は、俺の本心からの言葉を待っていたのだなと理解できた。


がむしゃらにやっていた時代にもっと
肩の力を抜いていれば、東雲の気持ちに気づいてやれることができたのかもしれない。


彼女の大切な三年間を無駄に過ごさせてしまったのだと自覚すれば、胸がちくりと痛んだ。
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