オリジナル
□卒業します3
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裏の裏をかいていつもの電車よりだいぶん早い時間のに乗った筈だが、向こうも裏の裏だったのか。
会ってしまったのだ。しかも同じ車両という偶然。
「……おはようございます」
「あぁ、おはよう」
何でそんな平気でいられるんだろうか、自分より落ち着いた姿を見せる東雲に俺は悔しくなり、対抗してかドカりと彼女の隣に座ってやった。俺だって大人の余裕を見せたい。
昨日までの悪夢にうなされていた俺とは違うのだ。
何故ならば東雲には彼氏がいて、俺に対しての気持ちは完全に過去のものだと判明したからだ。
もう、探ったり無駄に緊張する必要もない。
「……。昨日は送っていただいてありがとうございました」
「いや、当然だから気にしないで」
自ら触れたくないであろう昨夜の話題を出してくるとは、侮れない女である。
「てゆうかなぁ、本当にあんな時間にフラフラ出歩くのは良くないぞ?」
「はい、彼氏といたんで夜でも安心してたんですけど。急に置いてかれましたから」
「は?あ、そうか。……いや、そうかじゃなくて。あんな時間に?あんな場所で?」
「はい、私二股かけられていたみたいで」
「えーと、……すまん、嫌な事思い出させたか?」
語尾が疑問になってしまったのは、あまりにも淡々と喋る東雲だったからだ。
逆にこっちが冷や汗をかく。
「大丈夫です。
……って、ほんとは強がってるだけなんですけどね。
だって、先生に甘えたくなった事の言い訳みたいですから。すみません、そんなつもりはないんです。これでも」
結局そんな悲しそうに笑うんだったらはじめから強がるなと思う。
最終的にいつも悪者になるのは男の方だ。女の表情はずるい。
「ごめんな、冷たくして。そう知ってたら甘えさせても良かったと思う」
「……ありがとうございます、その言葉で十分救われます」
頭をぽんぽんと優しく叩いてあげると、一筋だけ東雲は涙を流してすぐに自らで拭っていた。
こんなことをしているとカップルみたいに思われそうだが、朝早すぎる電車は空いていて誰の視界にも入っていなかった。
「私からはっきりと別れを告げたいと思います!」
「うん、それがいいと思うよ。女を置き去りにするなんて
ろくな男じゃねぇわ、そいつ」
「ほんとです!女の敵です!」
「お、いい感じだ!そう言ってやれ!」
東雲は大袈裟にファイティングポーズをとって見せるので、多少は元気が出たのかと安心した。
「次はきっといい恋します」
「そうそう、応援してるよ」
女は強いな、と感じると可笑しくて俺は笑った。
「……頭を掻かないということは本心ですね?ありがとうございます」
「俺を馬鹿にするなよ、あれは昨日から封印してあるのだ」
「アハハ。せっかく先生のその仕草好きだったのに、やっぱ教えるんじゃなかったな」
「……」
だから、気軽に好きとか言うなよ。
と、以前の俺だったら悪態をついていたのかもしれないが、全部過去の事だと思えばずいぶんと気が楽だった。
女は強いから、すぐに新しい恋をすると思う。俺のことなんて忘れて。