オリジナル

□卒業します3
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「……あれ?校門って言ったよな、俺」

既に辺りは暗くなっていて、生徒もいない静まり返ったあいつの高校の前で俺は10分程待っていた。

「……ったく、俺は女の子の親にはなりたくないね」

過剰な程心配してしまう東雲への思いは親のようなものなんだと言い聞かせるために呟く。
電話も繋がらないし、しびれを切らす俺は車から出て辺りを探すことにした。


途中、見回りの教師に見つかってしまったので不審に思われないように保護者と偽る。

「あぁ、確か柳瀬先生が送ると言ってたんですけどね。……あれ、変だなぁ先生の車そこにありますねぇ」

「……えっと、柳瀬先生とは?」

「陸上部の顧問ですよ、徒歩で駅まで送りに行ったんですかね?」

「……男性か女性かと聞きたかったんですが!」

惚けた風に喋る老いた教師に捲し立てれば、やはり男と聞いて俺は礼も言わずに走り出した。


「やれやれ、柳瀬先生はそんな疑うような先生じゃないよ〜」

いや、男ってだけで充分疑う余地があるんだ。どんな奴か知らないし、事情はわからないが、
東雲が連絡をいれず約束を無視して他の奴に送らせる訳がない。


もしも柳瀬という奴がどんなに聖職面の教師だろうと、男である限り教師と生徒という関係は脆い壁でしかない。
向こうが壊そうと手をかければ、簡単に壊れるもの……そう考える俺は最低な教師なのかもしれないが、ただ、俺も男なもんで。男の考えは男がよく知る。



「……、はぁ、東雲!」

やっと見つけた頃には息も絶え絶えで、喧騒としてる駅前の煩さに俺の声は掻き消された。


この距離では向こうの声も何も聞こえはしないが、何やら言い争っているようにも見えた。
直感的に痴話喧嘩なのだと悟った俺だったが、しかし怯むわけでもなく呼吸を整えると彼らに近付いた。



「東雲!」

俺は再度、腹から声を出した。


「先生っ!?」

「……」

「待ってろ、今そっちに行く!」

歩道橋を渡っている間に、柳瀬という野郎は東雲から離れ、去って行った。本当の保護者でもないが苦言を呈してやりたかったが、逃げられてはしょうがない。

「大丈夫か?」

とにかく無事で良かったと、
東雲の頭に手を置いた。

「……っ、先生。私……」

さっきまで気丈に振る舞っていたように見えた東雲が泣き出すと、また懐かしさが込み上げた。
幼かった彼女はこんなふうによく泣いていた。

おそらく、あんな大人の男と恋愛をしてきて一生懸命自分も大人でいようとしていたのであろう。
たった二年で急激に成長したように見えた理由が今やっと理解できた。


「何も言わなくていい、今は……泣いていればいい」


東雲はまだ17歳の子供だ。
どんなに背伸びをしても、それに慣れても、苦しい時もあるだろう。

身の丈にあった恋愛をしてればいいものを……。


辛くなるであろうと知っていて何故それを教えてあげないんだと、現教師である柳瀬という野郎をやはり殴れば良かったと思えた。


「……先生に、聞いてほしいです。ぜんぶ喋るから。

私……ほんとに悪い子になってた」


「違う、お前が悪いんじゃない。

俺達大人が悪いんだ」


しかし早々に教えてやらなかったのは自分も同じで、柳瀬だけ責めるわけにもいかなかったのだ。
俺が東雲の気持ちに気付いて修成できていれば、高校でも同じ辛い恋はしなかったのかもしれない。


「達?……先生は、海潮先生は悪くない!私が勝手に好きになっただけです!

先生に片想いしてた思い出はぜんぶキラキラしてて、私の大切な思い出なんです……」

「でもお前は再び教師を好きになって、現に今辛い思いをしてるんじゃないのか?

だとしたら俺は、お前に影響を与えてしまった悪い教師だよ」



涙を流しながら、首を勢いよくふるだけだったが、俺の言葉に精一杯否定していてくれた。

しかし、目の前の元生徒がこうして泣いてる以上、俺の教師としての失敗を露呈していたのだ。
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