オリジナル

□卒業します4
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一時間程で食事を済まし、俺だけ飲まなかったことから、おのおの最寄り駅や自宅に送る役に就かされた。
聖職者面した悪の教師を助手席に乗せて、愛車は国道を進む。

こんなことになるんだったら俺も酒を口にしていれば良かったと激しく後悔した。緊張してか、ハンドルを持つ手が汗で冷んやりしてきた。……って、何故俺が緊張しなければならないのか!疚しいのは向こうだ。


「で、どこに向かえば良いですか?」

「あぁ、すみませんね。袴田南駅で降ろして下さいます?彼女が待ってますんで」


「はぁ、それはいったいどの彼女ですか?」

袴田南駅ってのは東雲ん家の最寄駅で、やはり知ってて俺を陥れようとする悪意に気付いた。負けじと応戦してみる。

「はは、やだなぁ。昨夜見られちゃったからわかってるでしょ?意地悪なんですね、海潮先生」

どっちが意地悪なんだか。しかし悪人面のように眉間に皺を寄せている俺は、隣にいる澄まし顔の柳瀬を睨んだ。

「別に柳瀬先生が生徒と付き合おうが、道徳から離れた行動をしようが勝手なんですがね、東雲は俺の大事な元生徒なんで!
彼女の大切な人生を狂わすのはやめて下さい!」

「……初めに彩世の人生を狂わせたのは海潮先生、貴方じゃないですか。笑わせないでくださいよ」


クスクスと不敵に笑う柳瀬は聞き捨てならない台詞を言うので、俺は我慢の限界だった。

「てめぇ、どういう意味だ!」

「生徒っていう越えられない壁を作って告白すらさせなかった海潮先生の意地悪ですよ。

おかげで彩世は狂ったように僕を求めてくれてましたから、まぁ自分としてはありがたいんですがね」


ラッキーなことに後方に車両はなかったので、俺は急ブレーキを踏むと荒々しくハンドルを切って路肩に寄せた。こいつを駅まで送る必要はない、というか東雲に近付けてはならないと悟ったのだ。


「降りろ」

「ふ、ありがとうございました。いろんな意味で感謝してますよ」


殴りたい衝動を抑えるのに必死な俺は抱えたハンドルに額をつけ、奴が視界から消えるのを待った。
柳瀬はノロノロとシートベルトを外す。


「……お前とは別れたいと言ってたんだ。俺は東雲を信じる。早く消えろ」

「そうですか?今日も学校の中で何度も
キスしてくれましたけどね。おかげで研修も遅刻で困りましたよ」


柳瀬はドアを閉める間際、そんなことを言っていた。


聞きたくもない内容は俺の頭から消そうと努力したのだが、しかし一瞬でも聞いてしまった内容に受けたダメージは絶大だった。


しばらく呆然としたあとにスマホを手にした。
確認したところで何になるのだろうと思いながら。




しかしいつまで経っても終わらない呼び出し音は虚しく車内に響いていた。
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