オリジナル

□卒業します5
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「はい、ジュースでも飲め」

「先生、私紅茶が良かったな」

「……はいはい、子供扱いしてごめんなぁ!」

落ち着いた東雲は年相応な我が儘なんか言い出したりするので少しだけ安心した。
赤くなった目でオレンジジュースを飲んでる姿はまるで子供だ。
彼女は子供だからこそ危機に直面し悩んでいるのだった。


「柳瀬先生にこんな物を渡されたんです」

ポケットからごそごそと取り出したのは銀色に輝くリングで、東雲はそれをそろりと俺の掌にのせた。

「これって……婚約指輪ってやつ……だよな?取り返したか、若しくは、婚約者の方が突き返したか」

「……」

俺は既婚でもないし婚約者なんていないし、今までできた彼女に結婚を申し込んだ経験も考えたことすらない。
しかしこの指輪の重みはそんな俺でもわかるもので、緊張からごくりと唾を呑み込んだ。


「こうなったのは私のせいだって言うんです。だから離さないって、……責任とれってことですよね」

「脅しじゃねぇか!」

俺は想像してたよりももっと酷い状況にまで追い込まれていた事に気付いてしまった。


「でも、知らなかったとは言え略奪したのは事実……ですから。

私、後悔してます。でも、知らなかったじゃ許されないところまで来てしまったんです。
……婚約者さんは今頃、どんな気持ちでいるんだろうって考えると、胸が苦しくて。


もしも私が柳瀬先生を心から愛していれば憎まれても怨まれても強くいれるはずなのに……。なのに……」


その先に詰まる東雲の代わりに気持ちを口に出したのは俺だった。


「もう、好きじゃないんだよな?」


「……はい。私最低ですよね。
訴えられるかな……。学校も……辞めさせられますよね、きっと」

「……」

守ると言ったはずなのに。



「柳瀬は、お前を愛してるんだよな?……だとするとそんな酷い状況にしないんじゃないか?
学校辞めさせるなんて、絶対にないよ。
好きなら守るはずだ」

柳瀬の愛情で守ってもらえるかもしれないと、矛盾した考えしか思いつかない。


「ない……と、思います。

先生は辞めてもどうなっても良いって……学校の中でも平気で……私を……」


途中までそう言って
口元を隠す東雲から想像できてしまったのだが、辛すぎるその内容は今度は俺でも言葉にできることはなかった。

柳瀬は道連れにする気らしい。


「わかった、大丈夫だから辛いことは言わなくていいから」

再び涙をこぼす東雲の頭を撫でることくらいしか今やれることはなかった。




「先生……」

「なんだ?」

「……また、抱き締めてもらえますか?……」


怯える幼子のような瞳でそうねだる東雲に、悩む時間も惜しいようで直ぐ様再び抱き締めた。


相変わらずこんな行為をしていても疚しい気持ちなど一つもなく、ただ目の前にいるこの子を助けねばと熱い思いだけが全身を奮い立たせていた。


もう、自分自身に驚きもしない。
純粋に助けたいと願っていた。
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