オリジナル
□卒業します6
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とりあえずこれからどうしたらいいものか。
自宅に帰ってきた俺はガシガシと頭を掻きながら乱れたベッドの上へ倒れこんだ。自分の精神的なダメージは相当だが、しかし当の本人である東雲に比べたら可愛いものだろう。
これを持ち続けるのは苦だろうと思って俺が預かることにしたリング。
寝転がりながら観察をしてみた。自分の小指でさえ途中までしか入らない小さなリングはフラットなデザインでダイヤが控えめに散りばめられていた。
買った当時はきっと婚約者のことを愛していたのだろう。
「婚約なんて愛がなきゃ踏み切れないよな……」
俺の過去、付き合ってきた女を一人ひとり思い浮かべる。まぁ、可能性があっても可笑しくなかったのは社会人になってからの交際で……そう言えば二年も続いた信子とは何で結婚を考えてやれなかったのかな、と不思議に思った。
当時は愛していたんだが。
お互い心は仕事に注ぎ込んでしまっていたから考える余裕がなかったのかもしれない。
あの頃は無我夢中で若すぎた。……今ならそういうことを考えることもできるのかもしれない。もしも俺らがダラダラと交際を続けていたとすると。
……いや、そんな非現実的なもしもはいらない。あいつは今結婚を間近に控えて幸せなのだから。
「……そう言えば、貰ってるよな?あいつも」
身動きの取れない今から脱却できる何かヒントになればと、信子に色々聞いてみることにした。
「もしもし、信子?えっと、──……」
久しぶりに連絡をとってみた俵信子は俺が柄にもなく指輪のことを聞いてくるので内心は驚いているだろうが、丁寧に教えてくれてた。
「あぁ、うん。私は職場でもつけてるわよ。それがどうしたの?」
「へー。普段からつけるものなんだな。それは一般的なの?」
「どうかなー、つけない人もいるし。私はわざわざ普段もつけれるようにフラットなデザインでお願いしたんだけど」
「へー。フラットなデザインはそう言う意味なんだ」
俺は手元にある指輪をもう一度眺めた。
確かに婚約指輪にしては質素なデザインだが、普段もつけたいならこうならざるを得ないのだろう。
「でもさぁ、普段もつけるとなるとちょっと残念な点があるのよねぇ」
「え?何が?」
「やっぱり炊事したりしてると傷ついちゃうのよねー。
私のもまだ貰って数ヶ月なんだけど細かい傷ついちゃったなー」
「……へぇ」
なんとなく感じ出した違和感を、早々に確信に近付きたいために、信子との会話を切り上げた。
「なによーもういいって!失礼しちゃうわねぇ。別に今度でもいいけどあんたが婚約指輪について調べる理由をきちんと話しなさいよね!」
「はいはい、悪ぃな。じゃあ!」
通話を切る前からパソコンの前に座りこみ、画像を検索する。
今の時代指輪のデザインからどこのブランドで作られたものだとかすぐに割り出せた。
(……あった、この店は県内で三店舗)
とりあえず脱却の糸口になるかどうかわからないが、信子のおかげで前進はできた。
そしてすぐに東雲に連絡をとった。
「もしもし、唐突で悪いんだけど。今週の日曜って空いてるか?
指輪について気になることがあって。一緒に調べに行かないか!?」
驚いたような声をしていたけど、すぐに快諾をした東雲に迷いはなかった。
俺の違和感が正しいかどうか、一緒に調べる必要がある。
再び目の前でリングを確認するが、やはり傷一つなく輝いていた。