オリジナル
□卒業します7
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「どういうつもりで東雲に渡したのか知らないが、これが何の意味も持たない事を俺達はもう知ってるからな」
握りしめたリングを柳瀬の目の前で突き返した。しかし柳瀬は相変わらず余裕の笑みは崩さない。俺はその姿に若干の動揺を感じてしまうがここは我慢比べだと、押し殺した。
「どういうつもりって、純粋に彩世への贈り物として買ったんですよ。それが何か?俺なりの意志表明であって、海潮先生には関係の無い話だと思いませんか」
「嘘をつくな、お前はこれを脅しの道具に使ったんじゃないか!?現に東雲はそう思ってる。確かに俺は関係ないが、悩みを相談された身なんでね」
「……へー。勘違いしてたんだね?それは可哀想に」
突き返されたリングを持った柳瀬は俺の後ろに隠れていた東雲の前へ進み出ると彼女の手をとった。
「ほら、ピッタリでしょ?彩世のために買ったんだから」
「……あ、あ……の、……」
戸惑いを隠せない東雲は微かに震える指にはめられたリングを見て息をのんだ。
予想外の行動をとられ、同じく俺も言葉がすぐに出ない。
「よく似合ってるよ。彩世、混乱させてしまったことは謝るよ。
でも俺の覚悟は理解して欲しい。もう君以外いらない、立場を批判されるのなら教師をやめてもいいんだ」
「そんなっ……」
目の前のこいつがどういう経緯で教師になったか知らないが、軽はずみな台詞に聞こえたその覚悟に俺は怒りを感じた。
「あぁ、お前みたいな奴が教師でいることに疑問をもつよ。
生徒である東雲の大事な将来を潰そうとしてる時点ですでに教師失格だからな!」
「……ふふ、熱いんですね」
「茶化すんじゃねぇ!」
「海潮先生も、俺の覚悟を茶化さないでくださいよ。単に仕事よりも彼女への愛を優先しただけなのに。
あぁ、貴方にはわかりませんか。どこまでも仕事熱心なお方だから」
「お前に俺の何がわかる!」
東雲の目の前で俺は柳瀬の襟首を掴んだ。今にも殴りそうなそんな間合いだった。
「やめて!」
絞り出したような声で東雲が俺の片腕を握った。
「こんなところで殴ったら、警察呼ばれちゃうよ……。私のことより、先生が、働けなくなる方が辛いです」
「……東雲」
こんな状況でも俺の心配をしてくれる健気な東雲を思うと、殴りたい衝動はすぐに消えた。
しかし、俺の代わりに激情し出したのは柳瀬の方で。怒りに満ちた表情で東雲を睨んだ。
「聞いたろ?この男は今でもお前を生徒としか見てないんだ!
久しぶりに会って絆されてただけだろ?目を覚ませ彩世」
───『先生、卒業しても先生は私の先生ですか?』────
「海潮から愛をもらえることなんて無い!お前が勘違いしてるその優しさは生徒だからだ!」
────『やだよ、めんどくせー。……なんで嬉しそうにしてんだよ。変な奴』────
「お前は一生生徒なんだよ」
───『だって、先生と同じ位置に立ってることが嬉しいんです!』────
頬をピンク色に染めてはにかんだ笑顔の東雲。記憶に残るその顔とはかけ離れた表情で柳瀬の言葉を受け止めているのを、
ただじっと見ているしかなかった俺は情けない。
しかし、言い返す事もできなかった。