オリジナル
□卒業します10
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夕方、校庭に運動部の元気な声はなく、いつもは耳に入る吹奏楽部の楽器音も聞こえてこない。帰宅してテスト勉強をする生徒が大半で、学校に残っているのは真面目に勉強してるやつら。その他、せっかくの部活が無いものだからと友人らと喋って遊んでる者もいた。
「ウケるよなー、野上のあの顔!めっちゃ焦ってたじゃん?」
「ハルちゃんはつまんねーけど、野上は面白いよな!次どうする?なぁ、山井も考えろって!」
「やだよ。てか、俺のためにやったとかありえねー!俺がいつ頼んだんだよ!」
思うより勉強が捗らないからなのか、それともハルちゃんの態度が気に入らないのか、苛々していた。
「なんだよ、俺ら山ちゃんが可哀相って思ってせっかくやったのに!!」
「はっ?同情してんのかよ、俺のこと!」
身近にあった机と椅子を蹴り倒す音は生徒のいない学校に響き渡った。すぐに近場にいた教師がかけつける………。山井らはまたも職員室に呼び出された。
補習授業の途中でそのことを耳に挟んだ俺とハルちゃんはすぐに職員室に駆けつけた。叱りつけていた体育教師から何とか山井らを自分達の方へ連れ出すと
乱れたままの机や椅子が残る教室へ移動させた。
「誰がやったか知らねぇけど、片付けろ」
検討はついていたが山井の様子を見るためにわざとそう言った。山井は謝罪は無いが黙々と一人で片付けて行った。
「……貴方達は?やってないのね?」
俯く山井以外の男子達。山井は片付けながらうざそうに言った。
「やってねーよ、俺一人だからそいつら帰してやれよ」
野上の言う山井の正義感を実際に見せつけられた。そしてこいつもなかなかの友人思いだ。ハルちゃんもそう感じているに違いない。反論はしなかった。
「山井は偉いなー、こんなときまで友達思いだもんな。黙ってたらこいつらも叱って片付け手伝わせるのに」
山井を褒めてわざと残りの奴等に焚き付けるようそう言った。どう感じるかはわからないが、野上の言う通りなら彼らもまた友人思いなのだ。
「だって悪くねーじゃん、こいつら」
「……だとさ、何か言うことある?山井に」
黙る男子達。まぁ感謝はしなくても良い、山井にとっては当たり前のことをしただけだ。
「野上も言ってたぜ、山井君は正義感があってお前らは友達思いだって。教師の俺らよりよく見てるよ、
大したもんだ。本当だったな。なぁ、ハルちゃん?」
急に話をふられたハルちゃん。しかし慌てることなく、阿吽の呼吸で語り出した。
「そうね、私は先生をしてるけど、いつも貴方達に教えられてばかりよ。野上君も山井君も、貴方達も……皆に感謝してる。山井君は言葉が悪くても言ってる事は間違ってないもの。
でも時に間違う時もあるのが人間よね?そんな時は認めて謝罪することも大事だと、私はそう思うわ」
「俺、野上もハルちゃんにも謝りたくねーから。あんたらみたいな偽善者大嫌いだし」
それでも意地を張る山井。なんとなく本音が見えてきたと俺は感じとった。
「ごめんなさい、先生がそう感じさせてしまってたのね。この通り、謝るわ。……殴りたいのならそうしてくれても良い。先生は受け止める覚悟よ。だって私は山井君が大好きだから」
深々と頭を下げるハルちゃん。山井が殴れるわけはないが、しばらくその姿勢のままでいた。そして、顔を上げずに呟く。
「いいの?……殴らなくて」
「……っ、もう良いよ!」
顔を上げたハルちゃんは嬉しそうに両手を広げた。
「ありがとう!
じゃあ先生から行くわ」
「はぁ!?」
「ちょ!何すんだよ!」
全員纏めてハグするハルちゃん。キモいだのやめろだの言うわりには皆顔を赤くして照れ、まるで小学生くらいのガキそのものに見えた。
確かに教師に対して好き嫌いや相性なんてものもあるが、でも本音は好かれたら嬉しいし素の自分を受け入れてもらいたいと願望はある。
「みーんな私の可愛い生徒達よ。先生友達思いの貴方達が大好きです!」
「……ハルちゃん、逆セクハラじゃね?」
「海潮先生は黙っててください!」
「司ちゃん嫉妬してんだー!」
「うるせー!違う!」
その後、落書きをした経緯を素直に話しきちんとハルちゃんに謝罪した生徒達だった。
こんなことがあるから教師って仕事は良いもんだと、久しぶりに胸の奥から熱くなれた。