オリジナル

□卒業します12
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午前11時。ホームルームの終了を告げる学校のチャイムが鳴ると校舎に生徒達の賑やかな声が響いた。

「どっか寄ってくー?」
「1組でカラオケ行くって、私らもついて行かない?」


いつにもまして興奮ぎみな子ども達を冷ややかな目で見送る俺は毎年お決まりの台詞を吐く。


「おーい、夏休みだからって浮かれるんじゃねぇぞー」

出席簿の背表紙で肩をトントンと叩きながら、適当に呟くもんだから八割の生徒は聞かずに素通りしていく。真剣に語ったところで耳を傾けてはくれないとはわかっている。


「つかさちゃんは浮かれないの?彼女とデートは?」

「仕事だっつぅの」

時おり絡んでくる生徒に相手をするが、そんなやつらの大半は部活動や委員会にも所属しない所謂隙な奴等だ。

「彼女の存在は否定しないんだ!」
「えー、うっそ!彼女いるの!?」

「否定するも何も、仕事が恋人だからな」

「……ダサッ!」


教師のプライベートを探ろうなんざ100年早い、とでも言うようにつかみどころの無い反応を返していく。

「はいはいうるせー。さっさと帰れ!」

持っていた出席簿を
使ってしっしと生徒らを追い払った。幾らか静かになった廊下でやれやれと溜め息をつくと、後ろからよく見知った同僚の気配がして振り向いた。


「海潮先生。素晴らしいですね、仕事が恋人だなんて……私もいつか言ってみたいです!」

瞳をウルウルと輝かせ俺を見つめてくるハルちゃんこと木田波瑠先生は、ここのどの生徒より眩しいくらいの純粋さを持っていた。

「……ハルちゃん」


哀れみの目を向けるとそれが何故だか分からないハルちゃんはきょとん顔だ。



「?変な海潮先生……。


あ、それより明日からもしお暇であれば学祭の準備を手伝って下さいね!私は部活動もありますから」


「はいはい。
お陰さまでなーんにも予定はありませんから。愛しい仕事に付きっきりですよっ」


わざと溜め息を溢しながらそう言って職員室の方へ歩きだす。ハルちゃんはクスクスと笑って少し後ろを歩き出した。


空は快晴。窓越しから生徒たちの賑やかな下校中の会話が耳に入る。青春真っ只中の彼らが夏休みに期待するその表情。確か去年は憂鬱な気分で眺めていたと思う。しかしそれは過去の事。

(いっぱい遊んで今しかできない経験するんだぞ……)

口に出しては言えないが、素直で可愛い生徒たちに心の中でエールを送った。


おそらく同じような感情を抱いたのだろう、窓の外を見た後にハルちゃんと目があった。互いに目尻は優しく下がっていた。



「子ども達は無邪気で可愛いですね」

「……そっすね」


可愛いと、すんなり肯定できた自分。たった数ヵ月前にはできなかった事だろう。


次第に各教室から人気が無くなり、廊下に静けさが広がると、なんだかもの寂しさを感じるようだった。
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