オリジナル
□卒業します2
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「海潮先生、第一中学の俵伸子先生がお呼びですけど」
「俺っすか?あーー、今ちょっと良いとこなのに」
昼休み時間に男子生徒と体育館でバスケで遊んでいた時に知らせが入った。
賭けバスケというのは内緒なのだ。
「えー、そんなん後でいいじゃん」
「どうしよっかな。俵先生美人なんだよな」
「うっそ、俺らも見に行っていい?」
呼びに来たハルちゃんが冷たい視線を送るのですぐに行くことにした。
「ダーメ、お前らには刺激が強すぎる。ハルちゃんで勘弁してくれな」
「はーぁ?つかさちゃんずりぃわ!」
「ちょ、どういう意味ですか?海潮先生!」
ボールをハルちゃんに渡すと小さく詫びて後にした。彼女には益々嫌われたであろうが、どうでも良いことだ。
「なんすか、俵先生」
「司久しぶりーー!………って、喜ぶと思った?来るの遅いんだけど。早く向こうへ帰らなきゃいけないってのに」
俵伸子とは同期の教員で、教師一年目に赴任した中学が一緒だった。
俺が先に移動になり、今年は奇しくも同じ街に赴任となった。中学は別だがこんな風に用事があって顔を合わせることもある。
「はいはい、だから何の用?
俺も生徒待たせてんだけど」
「どうせ遊びのでしょ?噂聞いてるわよ?まったく、小学校教諭じゃないんだから」
「男はいつまでもガキなもんでね。で、用事は?」
ケラケラと笑う伸子はあの時のままだ。教育について熱く語り合っていたあれから、俺だけが変わった。
「司、本当に心当たりないの?あーぁ、悲しいなぁ」
「あー。わかった、あれね。ごめんなさい」
「ほんと、とっくに期限過ぎてんだからね?別に用があるならいいけど不参加ならそう連絡ちょうだいよ」
そう言って伸子はおそらく俺に二通目の葉書を寄越した。彼女の結婚式の招待状だ。
「……海潮先生、そろそろお時間ですよ?」
「あ、すみません木田先生」
返事に困っていると、気づいたら隣のデスクに帰っていたハルちゃんが助け船を出した。
俺は転がっていたペンで参加に印をつけ、伸子に渡す。
「いいけど、俺が参加しちゃ不味くない?」
「……なんかあったっけ?不味い理由」
「……」
美人の作り笑い程怖いものはない。隣のハルちゃんまで氷りついたところでタイミング良く昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「じゃあまたLINEするわー司。ありがと!」
「はいはい」
あの頃の事まで無しにされるとは、しかも結婚式に招待するとか意味が全くわからない。これだから女は謎の生物だ。
去って行った伸子を疲れ果てた目で見送った。
「……あの、俵先生とはどんな関係なんですか?」
それ今聞くことか?
俺はハルちゃんに苛つきながら、まるで八つ当りするかのように大真面目に答えてやった。
「会話聞いてわからないですか?男女の関係っすよ。元ですけど!」
「……っ、あ、すみません変なこと聞いて」
「掃除行ってきまーす」
真っ赤になるハルちゃんにその一言が攻撃になると、心のどこかでわかっていたのかもしれない。
でも俺はこのくらいハッキリと線引きした方がわかりやすくて良いでしょ?と、思う。金輪際プライベートに足を突っ込まないで頂きたい。俺は同僚と無駄に仲良くするつもりはない。
『司ーー、19時に駅前の串カツ屋集合な!』
それから少しした後で伸子からの強引な飲みの誘いがLINEに入っていた。
「まず都合を聞けっての!」
まぁ、行くけど。
ハルちゃんはと言うと俺がきちんと見なかったプリントをやはり主任に何ヵ所も訂正を求められ残業中だった。
「お先に失礼しまーす」
「あ、はい」