オリジナル
□卒業します2
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それから12時なる前にはお開きになって、仕方なく俺が送ろうかと言った所『彼に迎えに来て貰うー』とのこと。
別に俺は下心があった訳ではないけど「あっそ」と素っ気なく答えた。……まぁ、全く無かったということは嘘になる訳で、それくらいの冷たい反応は許して欲しい。
「一応ギリギリまで待つけど、男に見られる前には帰るからな。厄介事に巻き込まれたくないし」
「あ、うん。ありがとー……。
……なんかさ、司ならこうして本音で話せるし甘えれるのにな。彼には全然ダメなの、私。……笑っちゃうでしょ?」
伸子は寂しそうにそう言って、隣に座る俺の肩に頭を乗せてきた。
だから、お互い下心があるのなら素直に部屋まで送らせろよと思った。
「やめろよ、……見られるだろ」
「ふふ、誰に?私の彼?それとも東雲さん?」
という冗談半分で口に出したであろう彼女の名前の通りの人物が僅か10メートル先で固まりながらこちらを見ている事に気付いた俺らは慌てて離れた。
「……っ、東雲お、おまえどうしてここに!?」
「東雲さん、こんな時間に何してるの?」
「……こんばんは。俵先生お久しぶりです」
東雲は伸子を睨んだ……ように俺は見えた。なんて間の悪い。
「まーた不良娘が、ダメだぞこんな時間に出歩いちゃ」
俺は空気を変えようと立ちあがり、わざと叱るような真似をして東雲に近づいた。
伸子も同じく。
「司、危ないから東雲さん送って行ってあげなよ。私はもう大丈夫だからさ、彼もうすぐ迎えに来るみたいだから」
「ふーん、俵先生って彼氏がいるのに海潮先生とくっついたりするんだ?」
しかし大人のそんな心情を察しない女子高校生はキツい一言で俺らを翻弄する。
「い、いや、俵先生もちょっとお酒入っててな!具合悪いんだ……」
「ごめんね。東雲さん。
……うん、彼がいるのに海潮先生に甘えたくなっちゃったの。そうよね、悪いことよね」
「ちょ、伸子?」
何故馬鹿正直に言う必要があるんだ!?本当に酔ってんのか?と、驚愕の表情で伸子を見た。
しかし伸子は子供である東雲に対して誤魔化そうとかそういう態度ではない表情だった。
「何で私に謝るんですか?俵先生がどんな事しようが関係ありませんから。……ただ、汚いなぁとは思いますけど」
「お、おい東雲」
彼女も伸子も対等で話していた。
お互いに元先生と生徒という間柄ではなかった。女と女のぶつかり合いに見え、こんな激しく意見する東雲の姿を見るのは初めてで、正直驚いた。
「私、ずっと東雲さんに謝りたかったの。
あの頃嘘ついて貴女に誤魔化していたことを」
「知ってます。だから先生のこと嫌いでしたもん。私のことを馬鹿にしてるようで」
「……」
「こうやって貴女が卒業して本音で話したかったの。
うん、あの頃海潮先生とはお付き合いをしてたわ。でも、馬鹿にしていなかったのは信じてちょうだい……傷付けたくなかったの。貴女も大事な生徒だから」
東雲の気持ちを知らなかった俺が口を出せる訳もなく、ただ交互に彼女らの表情を眺めていた。
そして緊迫した空気を終わらせたのは意外にも東雲だった。
「そうでしたか。
はい、信じることにします。
じゃないと今こんな風に話してくれないですもんね?……俵先生、ちょっと見直しました。失礼な事言って私の方こそごめんなさい」
そう言って深々と一礼するとくるりと背を向けて俺らの反対方向へ歩いて行く。
短く切られたショートパンツとパンプスを履き大人っぽく見える私服を着た彼女は、ネオンが輝く街でも違和感なく馴染んでいた。
ぼーっと、それを眺めていた俺を伸子が肘でつついてきた。
「あ、送って行かなきゃ。悪い、伸子」
「うん、そうしてあげて!じゃあね」