オリジナル
□卒業します3
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俺も早く忘れよう。
男ってのは、女がいつまでも自分のことを好きだっていう都合の良い勘違いをする生き物だからな。
─────「ハルちゃんおはよう。昨日はごめんな、プリントやり直しなの俺の責任もあるのに先に帰っちゃって」
「おはようございます海潮先生。いえ、私のミスですから」
「で?今日は朝から何やってんの?」
「授業の準備です!昨日はできなかったので」
「わぉ、手作りの資料?頑張るねぇ」
「……っ、なんか馬鹿にしてません!?」
「はは、ないない。お疲れさん」
真面目ちゃんなハルちゃんとは対照的に、俺は今日も一方通行の授業をこなし、目標のページまで進めばそれでいいと思っていた。
聞きたい奴は聞けばいいし、眠たいやつは寝てればいい。
参観授業でも研究授業でもないので無駄な気合いを入れる必要はない。
欠伸をしながら、社会科準備室を目指して歩くと、見慣れた三年女子が扉の前で俺のことを待っていた。
「どした?……って、頬腫れてんじゃん!」
「つかさちゃーーん……彼氏に殴られたぁ、痛いーー!」
「バカ、お前行く部屋間違ってんじゃん!
保健室だろう!すぐ冷やすんだ」
「だってこんな顔で廊下歩けないし、つかさちゃんぐらいしかこんな恥ずかしい話できないしー、とにかく準備室開けてよ」
「仕方ねぇな、俺が冷却材もらってくるから中で待ってな」
俺は朝イチの授業は無いからいいが、この子は大事な時期の三年生だ、サボらせたくはないが、とにかく俺を待っていてくれたんだからきちんと向き合おうと思った。
「はい冷却材。言っとくけど話聞くのは1限目だけな、俺だって授業あるんだから」
「うんうん、やっぱ保健室よりつかさちゃんのが良いわぁ。ねぇ、聞いて!」
と、話始めたのは長い恋愛話で要約すれば自分から別れを告げたら逆上されて男に殴られたらしい。
「あ、チャイム鳴ったから約束通りクラスに戻るか保健室な」
「……やっぱやだ」
「はぁ?約束だろ!俺も困るからさー、じゃあ担任呼んでくるぞ」
「担任はもっと嫌!あ、ちょ、酷いよ!引っ張らないで」
俺は男の力を使って半ば無理矢理こいつを引っ張った。一時間も話を聞いてやったんだから。次に進むべきだと判断した。
「つかさちゃんやっぱり他の先生と一緒じゃん……最低。勉強させるだけが仕事なんじゃん!」
「……」
『先生っていつも一生懸命だったよね』
こんな時に東雲の言葉を思い出す。東雲は拙い教師の俺を見てくれて、三年間も好きでいてくれた。
今はそうじゃないかもしれないけど、過去俺が悩みながらも真剣に取り組んできた事は間違いではなかったと証明してくれているようだった。
「そうだよ、中学は勉強するところだからな」
「……ほんと、最低。見損なった!」
「どうとでも言え。……あ、あいつだな?お前殴ったの」
既に諦めたのか抵抗感もなくただ睨むだけのこいつを連れてクラスに着いた俺は目当ての生徒を探した。
担任でもない俺が三年の教室に乱入するのがよほど珍しいのか生徒達は騒いでいた。
「なに?つかさちゃん、俺に何か用?」
「何かって、こいつに謝る事があるだろう!」
「えー、あれ?熱血教師キャラだったっけ?笑えるんだけど」
「人間関係ってのをお前らが卒業していくまでに学ばせなきゃならねぇんだ。お前ら一人一人の人生背負ってるんだから
先生にキャラとか関係ないだろ」
「……」
「謝るチャンスがある時に謝れ。
チャンスは二度と来ない時もある。
俺はお前も救いたいんだ。
……その手の感触、まだ覚えてるんだろ?罪悪感は一生残るぞ」
チャイムは少し前に鳴っていて、既に二時限目は始まっていた。
異様な空気の中で元々の担任が顔を出す。
「海潮先生?何事ですか!?」
「すみません、少し時間下さい」
「いや、先生も授業あるでしょ?」
「はぁ、でも今俺の授業よりこいつらに大事な事学ばせたいんで」
────……
その後なんとか生徒の方は解決できたのだが、俺は三年の学年主任の方からこっぴどく叱られてしまった。
まぁ、担任に相談も無しにあの子をサボらせた上に自分の授業は後まわし発言だからな。
担任をはじめ、色んな先生に目をつけられた俺の痛手は嫌だったが、それを挽回しようと真面目な態度で仕事する気も更々なかった。
「お先に失礼します」