オリジナル

□卒業します3
3ページ/6ページ

「え、海潮先生……大丈夫ですか?」

事情を知るハルちゃんが周囲の反応を見て心配そうに俺に耳打ちした。彼女の言いたいことはわかる。

「大丈夫っすよ。……無駄に残業して得る同僚からの評価は正直いらないものなんで」

「……!?そ、それは……」

途端に青冷めるハルちゃんにきちんとフォローは入れる。しかし俺は間違ったことは言ってないはずだ。

「あ、嫌みじゃないから。ハルちゃんの頑張りは生徒に伝わってたらそれで良いと思いますよ」


ピシャリと職員室のドアを締めれば今日をものすごく濃い一日にしてくれた生徒が二人。そいつらと鉢合わせになってしまった。


「あれ〜?お前ら何で手繋いでんだろうねぇ。俺の視力おかしいかな?」

「つかさちゃーーん!待ってたよ、今日のお礼が言いたくって。マジでありがとう!」

「もうこいつ傷付けたり泣かせたりしないからってつかさちゃんに宣言したくって」


「……はぁ」

呆れて言葉も出ないが、しかし久しぶりに教師としての充実感も得られた。
払った代償が霞むくらいの二人の眩しい笑顔も添えられて。


「つかさちゃん?」

「お前ら俺に今から夕飯奢れ」
「アハハ、やだよお金なーい!」



話を聞けば、勢いで切り出した彼女の言葉にカッとなり手が出てしまったとのこと。しかし謝られたことにより彼女も自らの言葉で傷つけた事を反省したそうだ。

「……楽しい思い出まで貶されたらそりゃ傷つくか。男は女と違ってそんなに精神強くないもんな」

帰宅ラッシュで蟻のように混む国道を、ノロノロと前進する前の車に合わせて運転していた。


「……、あれ?そう言えばあいつ……!」


あることに気付き慌ててハンドルを右に切って脇道に入る。制限速度40の狭い回り道でも今の時間帯は急ぐ者にとっては有りがたい。


『私からハッキリと別れを告げたいと思います!

女の敵です!』


思い出す、今朝電車で会った東雲の姿。
勇む彼女をさらに煽った自分の言葉は……。


「……くそ、最悪だ俺」

彼女の綺麗な肌が傷つく様を想像するといてもたってもいられなくなった。

こんな時、連絡先を聞いておけば良かったと後悔する。



無事でいてくれ……。


彼女はもう俺の生徒ではなくなっていたし、
過剰な心配なのかもしれない。
しかし今は追いかけることにそんな理由付けなどいらなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ