オリジナル

□卒業します4
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「とりあえず姉ちゃんも心配してるだろうから送るぞ」

「はい」

再び学校まで歩いて校門側に停めていた車に乗り込むと、そう言えば柳瀬の車は消えていた。

運転しながら柳瀬という男を考える。
遠目から見ても背が高く整った目鼻立ちはモテる印象だった。

「柳瀬は他の女子生徒からも人気あるだろう?」

「……そうですね。でも興味で寄ってくる生徒には冷たくしてました。だから怖がって近づけない生徒もたくさんいるんです」

「へぇ。おまえよくそんな先生落としたな!」

「あ、あの!落とすとか、そんなふうに言わないで下さい!」

恥ずかしいのか運転中の俺の肩を叩いてくるのでハンドルが左右に少し揺れた。


「あっぶねーな!俺が別れるのに協力してやるって言ってんだから。対策練るのに必要なんだよ、
そういう情報!」

「うー……っ。

……だから私は、逆のことをしてみたんです。部活では懐いても授業ではわざと素っ気ない態度とってみたり。良い点採った後でわざと赤点採ってみたり……」

「ほうほう、逆に向こうの興味を惹かせたのか。やるな!」


「……って、
褒めないで下さいよ!もうヤです、こんなこと海潮先生に言うの!
私最悪な子じゃないですかぁ!」

「ははは、ごめんごめん。
なんか教え子が知らない間に賢くなってて素直に褒めちまった」

顔を隠したまま小さくなる東雲は俺の前だとやはり中学生のままのようで可愛らしく感じた。

しかし、話す内容は男を翻弄する女そのもので、しかもわざとやってるなんてギャップがありすぎると思った。

ふと、不思議に思い一か八か聞いてみる。

「……ってのは、誰の入れ知恵?」

「あ、お姉ちゃんです。相談にのってくれてて」

「……」

やっぱりか。三つ違うあの姉も俺の知る生徒で、可愛らしい顔してやけに計算高い所から教師泣かせの中学生だった。彼女が卒業したあとにすぐ入学してきた妹は顔がそっくりだったが、担任になって性格を知ると真反対の超純情素朴少女であると笑えた過去を思い出した。


「おまえの姉ちゃんろくでもないな。……彼氏家に連れ込んでたし」

「あ、いつもの事です。まぁ厄介者の私を住まわしてくれてますから何にも言えません」

「そう?俺が叱ってあげようか?」

「や、結構です!ダメです!……お互い様なので」

「……お互い様?……あぁ、そういうことね。へぇー」

「う、……墓穴ほっちゃいました」


一瞬だけ全てあの姉のせいにして、東雲は俺のよく知る東雲のままだと安心したが、何気ない一言ですぐに打ち砕かれた。

根は純情だったに違いないが、そんなのはすぐに塗り替えられる。出逢う男によって。

それが東雲の場合は大人の男だ、しかも特別悪い男。

東雲を背伸びさせたのも、……女にしたのもあの柳瀬という男だ。



「はい、着いたよ」

「先生、色々とすみませんでした」

「まぁ、学校ではなんもしてこないと思うから良いけど。しばらく帰りは友達と帰ること!何かあったらすぐに俺に連絡して」

「わかりました。……海潮先生、ありがとうございます」

「いいよ、本当に俺の責任でもある気がするし」

「そんなこと、ないです!……でも、先生の言葉がすごく嬉しかったので、素直でいることにします。協力して下さい」

「うん」
そう話終わると窓ガラスを閉め、自宅へと運転した。
今日は、というかここの所毎日オーバーワーク気味で疲れている。内容は仕事ではないんだが。


今夜は早く寝ようと誓って、好きな深夜アニメを録画設定にした。
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