オリジナル
□卒業します5
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「もしもし……」
「っ、海潮先生!?ごめんなさいこんな時間に何度もしつこく電話をかけて!」
「いや、先に俺からかけたんだし、いいんだけど。それより柳瀬と一緒?」
まぁ、一緒にいたとしたらこうして電話をかけられないとは思うが俺は返答次第で一緒にいたかどうかを知りたかった。
「……柳瀬先生は、もう帰りました」
あぁ、やっぱりあの後会ってたんだなと予想が当たると胸くそが悪いもんだ。
「ふーん。で、どうするの?
学校外で会ってるってことは柳瀬と寄りを戻す気?」
「違うんです!
きちんと清算したいって気持ちは海潮先生に言った通りですよ?」
「どうだか……。悪いけど女のそういうところは信用できないんだよな、俺」
『今日も学校の中で何度もキスしてくれたんですけどね』
柳瀬の言葉が繰り返し頭に響く。
この時点で既に被害者は東雲ではなく、俺なんだと勘違いし始めていたのかもしれない。
ここにきて東雲を突き放すような態度をとってしまった。
「……」
「助けてあげたいのは山々なんだけど、
お前がどうしたいのかはっきりしないと俺も動けねぇから」
そのまま黙る東雲はどんな表情で聞いているのだろうか。気になりはするが顔の見えない電話で良かったとも思う。
「先生は優しいんですね」
「はぁ?」
しかし突然の指摘に言葉を無くしたのは俺の方で。
「だって、私を元生徒としてじゃなくて女性として見てくれてるから。
教師だったら正解に導いてくれるでしょ?海潮先生は私の出す答えに付き合ってくれるから……やっぱり優しいです」
ガシガシと頭を掻いて返事を考えるが全くどうしていいのかわからなくなり、東雲の言葉を黙って聞くしかなかった。
「先生、ありがとう。
……もう、充分優しさと勇気をいただけたから私一人で何とかします」
こんな俺が感謝される筋合いは無い。ただ、拗ねていただけの小さい男だ。なのに、何故いつも腐っていく自分を救ってくれる言葉をくれるんだろうか。しかもタイミング良く。
東雲は無意識にそれをやっているのだからたちが悪い。
「あ゛ーーー、もう!わかった。
最後まで面倒見るから、そんなこと言うな!」
「……先生、本当に?なんか怒ってません?」
「怒ってない。これ以上からかわないでくれ。」
「からかってるつもりはありませんけど……。じゃあ、お願いします」
そして、明日の放課後東雲の部活が終わる頃を見計らって相談にのることを約束してお互いに電話を切った。
情けない話だが、内心ほっとしていたりもした。
くだらない感情に流されてあのまま東雲との縁を断ち切っていたら、後悔しそうで怖かった。
『後悔したくないんで、頑張ります』
あんなに嫌悪しているハルちゃんの熱意だが、まるで今の自分はハルちゃんのようだ。
いいや、違うと言い聞かせて頭を小さくふる。
「頑張りすぎたから後悔することもあるんだ……」
そう、過去の失敗を思い出して二度とそうならないよう戒めるつもりで呟いた。