オリジナル

□卒業します6
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そして日曜日。例のジュエリーショップがある駅前の通りで俺達は待ち合わせをしていた。

車は市営の駐車場に置き、約束をした駅前の広場で東雲を探す。
やたらと学生らしき若者がひしめくこんな場所で一人の少女を見つけるのは難しい。流行りに敏感なあの歳の子らはどれも似たような格好をしているのだ。


(もう着いてますって連絡は来たんだけどな……)


「海潮先生。もーー、ずっと前から手を振ってたのに気付かなすぎです」

「!……なんだそんなところにいたのか」

突然背中から服を引っ張られ、振り向くと声の主はやはり東雲であったが、しかし見た瞬間にこれは遠目からじゃ絶対にわからないだろうとも思った。


「なんか雰囲気違うな。そりゃわかんねぇよ」


いつもは下ろすかポニーテールにしていた黒髪は毛先が巻いてあるためにふわふわと揺れ、何もしなくても目立つ目元はメイクでさらに印象付けられるものだった。
おまけにシックなツートーンカラーのワンピースに合わせたモノグラム柄のバックにハイヒールは
完全に俺の中の探す対象から外れていた。


「大人っぽい?」

「うん」

「へへ、良かった!」

そう言って笑う仕草は俺のよく知る東雲だけど、艶を加えれた唇だけに目を奪われれば一瞬心臓が跳ねた。


「お前浮かれてないか?遊びじゃないんだからなー」

ガキはガキらしくしてろ、と意味をこめて後頭部にチョップをすると東雲は膨れて俺の横を歩き出した。
目的の場所はここから歩いて5分程にある、高級感ある店が並ぶ通りだ。


「わかってますよ!私なりに作戦があるんですから」



そこまでの距離を東雲の作戦とやらを聞きながら歩いた。

なるほど、大人っぽい格好は店員さんの前で指輪をもらった婚約者だと偽るためのものらしい。


「とりあえず柳瀬先生の名前と携帯番号知ってるから私がこれをもらった婚約者だって疑われなければ、色々教えてくれるかもしれませんから!」


「そうだな、俺はじゃあ邪魔になるから外で待っとくわ。……なんか大変なことになったら呼んで。俺が事情を話して対処するから」

「はい、じゃあ……行ってきます!」


少しだけ緊張感のある声でそう言うとバッグを握りしめながら店に入って行った。

心配でウィンドウガラス越しにしばらく見ていたが、何やら落ち着いて対応しているようにも見えたので俺は背を向けて煙草を一服することにした。

じろじろ見ても怪しまれるし。
東雲は俺におんぶにだっこ状態でなく、自分にできることはと精一杯やろうとしているのだから。



……それにしても綺麗だったと、ふと思う。

久しぶりの再会で感じた大人っぽさは、ここ最近の泣きじゃくる姿のせいで打ち消されていたのだが、やはり東雲も成長をしているのだ。いつまでも中学生のままではない。




『……また、抱き締めて もらえますか?』


いや、今なら絶対に無理だ。よくあの時純粋に慰める気持ちからそんなことできたよなぁ、と考えると恐ろしい。
今日の姿でそんなことを言われたらヤバイ……って、こんな時に何を考えてんだと自分に突っ込んだ。浮かれてるのは俺かよ。



「先生、お待たせしました」

「あ、あぁ。どうだった!?」

慌てて煙草を灰皿へ押し付けて、腰かけていた車両止めから立ち上がる。
表情を見ればなんとなく結果は想像がついた。

「結論から言うとダメでした。もう一件回らないといけません」

「わかった、駐車場まで歩きながら話し聞くよ」

「はい」


聞けば、婚約者ということはばれずにすんなりと店員と話をできたのらしいが、そもそも柳瀬はこの店舗で購入していなかったらしく調べようがなかったとのこと。

「あと、気になることがあって……。

この指輪はエンゲージリングとしては売ってはいないそうなんです」

「え!?そうなのか!」

「……はい。普通エンゲージリングとなるとプラチナで作られるらしくて。

これはシルバーでダイヤが小さいからファッションリングじゃないかって」


「へー。すまないな、俺にはわからなかった」

「私もです。……これってもしかして柳瀬先生の嘘なのかな……?そうだったらいいのに。

何もかも嘘だったらって、そんな都合よく行かないですかね。すみません」


少しだけの期待くらいしてもいいのに、自分を戒める東雲を見て同情した。


「ま、とりあえず他の店舗も調べようか!

嘘だったらいいよな!俺は希望もちながらで良いと思うけど?」

そう言って肩を一つ叩いてやった。


「そうですね……。ありがとうございます、元気でました」
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