オリジナル
□卒業します7
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「……だから、なっ?俺は彩世のことを一人の女性として愛してるんだ。卒業までは待つから、その後は、」
「柳瀬先生、ありがとうございました」
俺の心を引合いに出した柳瀬の言葉は教師として最低かもしれないが、しかし女性にとっては最高の言葉だったに違いない。
しかし東雲はそんな言葉の途中で遮った。
「……なっ、彩世?」
「柳瀬先生に愛してもらえて幸せな気持ちもたくさんもらいました。恋愛を知らなかった子どもの私にここまで真剣に向き合ってくれたことも感謝しています」
左手薬指にはめられたリングを外すと、大切そうに両手で持ち柳瀬の目の前に差し出す。
「ありがとうございました!……でも、リングも気持ちも、もう受け取れません」
「……」
柳瀬は納得していないのか、男の意地がそうさせるのかわからないが、リングを差し出す東雲の手を取ることはなかった。
「……私、それでも海潮先生がいいんです」
東雲は柳瀬の方を向いてそう話し始めたのだが、横にいた俺への言葉に聞こえた。
「久しぶりに会って気付いたんです……私は一生懸命教師をしてる海潮先生が好きなんです。
柳瀬先生の言う通り、生徒としか見られてません。……でも、振り向いてもらえなくていいんです。そんな恋をしてる私、今とっても幸せなんです」
柳瀬に告げているはずのその言葉だが、全て俺の胸に突き刺さる。
確かに俺は東雲の気持ちに応えてやれることはできない。平然と抱き締めてやれたそのことが決定的な証拠だ。東雲もそれをわかっていたのだと思うと、なんて酷いことをしていたんだと自責の念に駆られる。
……しかし、東雲はそれでも幸せなのだと。そう断言した。
固まる俺に今度は柳瀬が胸ぐらを掴む。
「……殴っていいですか?海潮先生」
「……」
殴られても仕方ないと思う俺は奴の拳が眼前にきた瞬間、目を瞑った。
……しかし一向に痛みを感じない違和感にそろりと瞼をあけると、東雲が必死で柳瀬を止める姿が目に入った。
「……嫌、……海潮先生を殴らないで……。お願い」
どこまでも情けなく感じる俺は一切言葉を無くしてしまった。
報われない思いを抱えた俺達はしばらくその場で立ち竦んでいたが、先に立ち去ったのは柳瀬だった。
残された俺と東雲は沈んでいく夕陽に気付き、いつまでもここにはいられないと歩き出した。