コイノヤマイ

□カルテ8
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 本来ならもっと帰りが遅くなる予定だったので、運転手と秘書には先に帰るように伝えてあった。

 さっきの電話で、仕事への意欲は一気に失せてしまい、やるべき仕事を残したまま社長室を出たのは夜の8時という、予定していた時間よりかなり早い時刻だった。

 舞空術を使って帰っても良かったが、すぐに家に帰りたい気分でもなかったので、気晴らしにエアカーを運転して帰ることにした。

 自分で運転するのはいつ以来だろう。

 そう思いながら、赤いスポーツカータイプのエアカーのカプセルを投げた。

 最近発売されたばかりのそれに乗り込み、エンジンを掛けると、アクセルを勢いよく吹かしてカプセルコーポレーション本社から夜の街へとエアカーを発進させた。

 久し振りの運転に少し気持ちが高揚してくるが、さっきの電話の事を思い出し

(全く……何なんだよ……)

 と、悪態をついた。

 最近やたら恋愛のことについて絡まれる事が多いことに気分が萎えてしまう。

 母や悟天だけならまだしも、取引先の企業とのやり取りの中でも、他愛ない世間話しの中でそういう話題が出るようになってきた。

 それは相手が自分に対して心を砕いているという事なのかもしれないが「ほっといてくれ……」と、心の中で悪態をつきつつ、愛想笑いでやり過ごしている自分がいる。

「はぁ……。勘弁してくれよ……」

 そう呟いて信号待ちで止まると、たくさんの人が行き交う交差点の1つ向こうの横断歩道を渡る、見覚えのある姿に目を止めた。
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