Pioneering figure of the fairy tale:

□The day before the departure
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イギリス
スコットランドの森の中



その大きな煉瓦造りの屋敷では今、バタバタと走り回る音が響いている。

「こら、イリューシア!?走り回らないでちょうだい!
こっちは尿結石を一瞬で治す薬の試作をしている最中なの!!」

一階の一番端にある、重厚感のある大きな扉のその部屋は、今の発言をした女性、アネフィモラの仕事場だった。

彼女は魔法薬学者である。

今は近所のおじさんの悩みを聞いていて思い付いた、“尿結石を一瞬で治す薬”を作っている最中だった。

今まで無かった薬なだけに、きちんと集中して作業がしたい。

そんな彼女の望みを華麗に無視して家中を走り回るのは、彼女の娘、イリューシアだった。

重い扉を開き、杖を喉元に当てて拡声器にする。そうして大声で注意をしたのが先程の発言な訳だが、当の注意された本人は未だバタバタと五月蝿い。

アネフィモラの注意する声の大きさに驚いたのは、驚いてほしい本人ではなく女中たちや屋敷しもべ妖精たちだけだった。

因みに余談だが、この家のしもべ妖精たちは皆綺麗な枕カバーを着ている。しかもその枕カバーは、どれもアネフィモラのお手製である。

話を戻すと、その女中や妖精は何事かとそれぞれの持ち場から顔を出して辺りを窺っていた。

何があったのやら……と頭を抱える母親を余所に、未だ止むことのない騒音。

普段は優しい母親も、流石に限界であった。

「こらァア!イリューシア!!
 五月蝿いと言っているでしょう!?
 降りてきなさい、この馬鹿娘!!!」

全員が思った。

あ、ヤバい。御愁傷様です……と。
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