一軒

□面倒
1ページ/14ページ










「さあさあ皆さん!今宵もやってまいりましたドリームナイト!!ラストを飾るは人気No. 1のこちらのピエロでございます!!綱渡りに空中ブランコ、なんでもこなしてしまうこのピエロ、今宵はなんと!」










ドラムロールが鳴り響く中、俺は一人精神統一していた。











ジャン!


「こちらでございます!虎の火の輪くぐりならぬ、ピエロの火の輪くぐり!!さあさあ皆さん、音楽に合わせて手拍子を!!!」










俺は舞台に登場し、お客様に向かってお辞儀をする。









表情を作らずとも、カタカタと人形じみた動きをすれば、皆の笑い者ピエロの完成。笑顔でなくとも、派手なメイクが笑顔なら、それは笑顔である。


































今日もサーカスの舞台が終わり、出口に走り出すサーカス団のメンバー。もちろん俺も。




お客様のお見送りだ。









「あ、あの、ピエロさん…。」






呼びかけた声に応えるべく、人形の様に大げさにぐりん、と振り向くと、








「…あの、握手してもらえませんか?」








……山田…!












同じクラスの、隣の席。





こいつは俺のことには気づいていないだろう。こんな化け物メイク、気付くはずがない。







…っと、握手だったな。






「あの、…駄目ですか?」






違うよ違うよ、と手を振れば、山田は顔を明るくした。




俺は山田の手を取り、両手で包み込んだ。



そしてついでに、そのままひざまずき、手の甲に軽くキスをした。



まあ、ファンサービスってやつ?






「えっ、え…。」



顔を赤くする山田に、
俺は軽く戸惑ってしまった。





「……ピエロさん、次俺が見に来るときは、ちゃんと笑っててくださいね。」








…こいつ。



気づいてやがったのか。

















次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ