一軒
□面倒
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「さあさあ皆さん!今宵もやってまいりましたドリームナイト!!ラストを飾るは人気No. 1のこちらのピエロでございます!!綱渡りに空中ブランコ、なんでもこなしてしまうこのピエロ、今宵はなんと!」
ドラムロールが鳴り響く中、俺は一人精神統一していた。
ジャン!
「こちらでございます!虎の火の輪くぐりならぬ、ピエロの火の輪くぐり!!さあさあ皆さん、音楽に合わせて手拍子を!!!」
俺は舞台に登場し、お客様に向かってお辞儀をする。
表情を作らずとも、カタカタと人形じみた動きをすれば、皆の笑い者ピエロの完成。笑顔でなくとも、派手なメイクが笑顔なら、それは笑顔である。
今日もサーカスの舞台が終わり、出口に走り出すサーカス団のメンバー。もちろん俺も。
お客様のお見送りだ。
「あ、あの、ピエロさん…。」
呼びかけた声に応えるべく、人形の様に大げさにぐりん、と振り向くと、
「…あの、握手してもらえませんか?」
……山田…!
同じクラスの、隣の席。
こいつは俺のことには気づいていないだろう。こんな化け物メイク、気付くはずがない。
…っと、握手だったな。
「あの、…駄目ですか?」
違うよ違うよ、と手を振れば、山田は顔を明るくした。
俺は山田の手を取り、両手で包み込んだ。
そしてついでに、そのままひざまずき、手の甲に軽くキスをした。
まあ、ファンサービスってやつ?
「えっ、え…。」
顔を赤くする山田に、
俺は軽く戸惑ってしまった。
「……ピエロさん、次俺が見に来るときは、ちゃんと笑っててくださいね。」
…こいつ。
気づいてやがったのか。
†