一軒
□お前が覚えてなくても
1ページ/15ページ
「のぉ、柊(シュウ)。」
「んー?油揚げか?」
「違うわい、誰がそんなもの。」
「ん。」
目の前に3枚入りの油揚げを突き出すと、そいつはダラダラとヨダレを垂らした。
「それやるからくっつくな。
俺今忙しいんだから。」
「またぱそこん、とやらか。つれないのぉ。」
ジジくさい口調にもかかわらず見た目は二十代後半の色男。自称年齢は200歳とちょっとらしい。
「少しぐらい味見させてくれ。」
「毎日してんだろ、1日くらい休ませろ。」
人間の耳にあたる部分は、白い毛の生えた狐の耳。というかこいつが狐だ。
「そんな飽きないのかね、オキツネサマ?」
「儂を愚弄するか!!!」
「だったら?」
「…ぐっ…。」
狐の神様だかなんだか知らないけど、俺がこいつをいじっても害がないのは、こいつが俺に惚れているから。…らしい。
「…どーせ発情期の勘違いだって。」
男なんかフツー手出さねーし。発情期って要は繁殖本能だろ。男じゃ繁殖できねーよ馬鹿たれ。
「だから毎日違うと言っとるだろうが!なぜ信じぬ!?」
「裏が神社だからってフツー人の家来るか?仮にも神様だろお前。」
家っつっても、アパートの一人暮らしだけど。
「んっ、ちょ……近付くなって。」
「柊…儂はお前を愛しているのだぞ。」
「おい、ツネ…やめろって。」
「そのオナゴのような呼び方はやめろといつも言っているだろう。」
…別にキツネだしいいだろ。
頭の中でそんなことを考えながら、データの破損を防ぐためにノートパソコンをそっと閉じた。
†