一軒
□よろしいでしょうか
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「おい春田ァ!!資料もってこい!!」
「机の二段目の引き出しに入っております。」
「うるせぇ!!データが入ってねぇぞ!!」
「その一つ下のファイルでございます。」
「あぁイライラする!甘いもん食いてえケーキ持って来いケーキチョコケーキだ!!」
「休憩まで後一時間程ありますのでもう少しお待ちください。」
…無茶振りというか、我儘というか。
この方はとにかく人使いが荒くてらっしゃる。
「おい春田こっちこい。」
「はい。」
私は資料を整理している手を一旦止め、早歩きで旦那様へと歩み寄った。
「何でございましょう。」
「ここの会社の戦略分かるか?」
「調査致しましょうか?」
「……いや、やめておく、お前の調査は犯罪に足を突っ込みかねない。」
…荒いくせに頭は妙に冷静でらっしゃる。
「……春田、近い。」
「おや、顔が赤いですよ。
お風邪でも召されましたか?」
「……黙れ。離れろ。」
「かしこまりました。」
旦那様の覇気が無くなる時、それは私の気が狂う時でもあります。いつものように怒鳴ってくださったらどれほど楽なものか。
「おい春田!!!ケーキはまだか!!」
「こちらに。本日ご用意させていただきましたのは、サンセバスチャンでございます。ほんの少しラム酒を使っておりますが、熱を加えておりますのでご心配はいりません。」
「んーっ、うまっ…!」
…聞いてませんね。
「紅茶の方はアッサムをご用意させていただきました。チョコの甘さにぴったりだと思いますよ。」
「仕事の合間に甘いもんてすげー幸せぇ…。」
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