長編小説

□月に溺れる 第三章
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(気まずい・・・気まずすぎる・・・)



宮廷に戻ってからというものピリピリした空気が二人の間に張りつめていた。

面の上からでも井宿の不機嫌さが伝わってくる



井宿殿に出会ってからというもの胸が締め付けられる感覚になることが多くなった・・・
今もそうだ。

でも今日は一段ときゅーっとなる。




気づかれないように横目で彼を見てみる。











回想****

「彼女、かわいいから一人にすると危ないよ?」

”かわいい”の言葉に顔に熱がこもる香奈。
井宿がしっかり握っている手首にも熱が伝わるようで気恥ずかしかった。


井宿は返事もせぬまま反対方向に足をむけた。

グンッと右手をひかれた香奈も井宿について行く。


「君は・・・」

背中から聞こえてきた青年のその言葉に振り向かずに足を止めた井宿。
急に立ち止まった彼の背中にぶつかった香奈。


「きゃっ」

その反動で左手からするりと滑り落ちた飴細工。

目線を下にやるとバラバラになった飴があった

「朱雀殿が・・・」


飴に気を取られた香奈に青年の言葉は届かなかったが井宿にははっきり聞こえた。

飴を拾い集めようとしたが右手が邪魔をしてかがむことができない。

「いくのだ香奈」


さっきより少し低い声の井宿が手をひいた。


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現在に至る









何を考えているの?


どうして辛そうなの?





普通の人間ならどうやって慰めるんだろう。

普通の女性ならどうやって寄り添うんだろう。
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