長編小説

□月に溺れる 二章
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星宿が居なくなった宮廷では井宿と狐牙がのんびりとした時間をすごしていた。




「狐牙?」


ん?″



「その・・・・
先日の想い人の話なのだが・・・」


井宿が気まずそうに話し出す


「人だったころ、そんな人がいたのだ?」

勇気を振り絞って聞いたが、少しの間をおいて


忘れた″


とすっぱりした答えが返ってきた。
井宿は納得いくはずもない。

この間話してたのに?と問おうとしたところで狐牙がぽつりと口を開く

もう何百年も前のことで・・・人だったころの記憶がとぎれとぎれのなってきているんだ。″


「・・・」



こうやってどんどん化け物になっていうのも怖いもんだな″


狐牙は井宿の目を見ずに言った。

その瞳は悲しみと恐怖にあふれているように見えた


「化け物なんかじゃ・・・」



その真剣な声に思わず顔を上げる狐牙



「狐牙は化け物なんかじゃないのだ。綺麗だ。心も、体…もすべて。」







沈黙が流れる。



耐え切れずに

私の毛皮は高く売れそうだからな!毛並みもいいし″

なんて間抜けなことを言ってしまった。

顔を見ることなんてできない。
体すべてが心臓になったようだ。




「おいらの前では素直になってほしいのだ。」




「香奈」



久々の人の名に目を見開く狐牙



なんで・・・・(その名を…)″

振り返ると井宿の姿に戻った彼。



「太一君にきいてしまったのだ、本当の狐牙・・・いや香奈が知りたくて」



勝手なことをしてすまないとまっすぐいうから私も目線を外せなかった。



井宿が面を外してこういった

「香奈本当の君に会いたいんだ。オイラじゃ頼りないのだ?」




恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのに目線をはずせないのはどうしてだろう…。


彼の…井宿の目は真剣だった。



シーンと静まり返る宮廷に風の音だけが聞こえていた




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