長編小説
□月に溺れる 第四章
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「香奈・・・」
さっきまでそこにあった温もりが消えてしまった。
香奈は確かに言った
「異世界から来た」
と。
彼女の秘密をこんな形で聞くことになるなんて
どうしたらいいかわからず…ぼーっとしていると
「井宿!!香奈!!」
ひどくあせった様子で翼宿が駆け寄ってきた。
「あれ?香奈は?」
そこにいるはずの香奈の姿が見えないことに焦っている様子だった
「目の前で…消えたのだ…」
「な・・・なんやて?」
井宿の言葉に
まさか、あの二人が連れて行ったんじゃないやろな!と扉の方をみる。
「香奈は…美朱と同じように異世界からやってきたんだ。だからもとの世界に返ってしまったのだ…」
自分も先ほど伝えられた事実を翼宿に説明する。
その言葉にただただ、驚くだけだった。
「翼宿さーん!」
そこに走ってきたのは張宿だった
「早く美朱さんをさがしにいかないと!」
その言葉にハッとする
「美朱が・・・?」
「そうなんや!美朱の奴…神座宝を青龍のやつに奪われたのを追いかけていなくなってしもたんや」
翼宿がざっくり事の詳細を伝える。
「・・・!今は美朱を探すのがさきなのだ・・・!」
香奈の香りが残るここに後ろ髪ひかれながらも、今すべきことをするために外に出る。
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「・・・っつーわけで先に西廊国に向かってくれってことだ」
と、頭をかきながら鬼宿が言う。
具合が悪いから先に西廊国に向かっていてくれ
、と美朱からの伝言を太一君に聞いたのだった。
「あれ?香奈は?」
そこにいる全員が彼女の姿がないことにすぐに気が付いた。
井宿は事の経緯を説明した。
「・・・ってことは香奈は巫女だったのか?」
ここでは異世界からした少女は巫女だ、と言い伝えられている。
「過去に何があったかはわからないけど…香奈は自分でのぞんで異世界に帰っていったのだ…」
誰がどう見ても、二人は想いあっていた。
香奈が望んで帰っただなんて、信じられなかった。
「井宿…お前本当にそれでええんか?」
翼宿が心配する
「今は西廊国を目指すのだ」
にこっと笑ってみせた。
(香奈…オイラはもう君に会えないのか…?)
朱色に染まる空はどこかさみしげで
香奈の最後の笑顔を思い出させた。