48グループ

□渡さない
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久美side


夕方の教室。


部活に所属していない私は、1人机に落書きをしながらある人を待っていた。


時計の針は17時をさすところだ。


そろそろかな。


消しゴムで落書きを消している途中、教室の外でパタパタと足音がきこえた。


「…っ、はぁ、はぁ…くーちゃん!お待たせ…っ!」


「玲奈。そんな走ってこなくてもよかったんだよ?」


「だって、くーちゃんに早く会いたかったから…」


「そ、そっ、か…//あ、えっと…部活お疲れ様、玲奈」


「うん、ありがとう!」


子供のような笑顔に胸がキュンとする。


今すぐにでもキスしたい感情を抑え、カバンを持って勢いよく立ち上がった。


「さ、帰ろっか」


「うん。…あっ」


「どうした?」


「部室に忘れ物しちゃった…とってくるね!」


「一緒に行こうか?」


「ううん!すぐ行ってくるから。くーちゃん先に昇降口行ってていいよ!」


「あ、うん。わかった」


走っていく華奢な背中を見送り、忘れ物はないかと机の中を確認する。


数学の教科書が入っていたけど、家に持ち帰ったところで勉強なんてするわけないので、置いていってもいいだろう。


「さ、昇降口行ってますかね」


教室へ行こうとドアの方へ向かうと、目の前に人影がみえた。


顔を上げなくてもわかる。


私が大ッ嫌いな奴。


「…なんだよ」


「いや、1人なんだなーって思ってね。玲奈ちゃんは?」


「気安く玲奈ちゃんなんて呼ぶな」


「…ちっ。…松井さんは?」


「部室に忘れ物したって取りに行った」


「へぇ」


そう言うとそいつは教室の中へ歩いていき、窓枠に座った。


「浮気じゃないの?」


「なっ…てめ…!」


「あー、うそうそ。冗談だよ。そんなんあたしだってライバルが増えて嫌だ
し」


「…玲奈が浮気するなんて有り得ない」


「そうだろうね」


ぴょんっと飛び降りたそいつは、私の方にずんずん進んでくる。


私の顔の前にくると、気味の悪い笑顔を浮かべた。


「…なん、だよ」


「顔赤くない?惚れた?」


「誰がお前みたいな野郎に惚れんだよ」


「それはお前も同じでしょ」


「生物学上は女だから」


「ぷっ…ははっ…」


「なに笑ってんだよ」


「いや、面白いなーって…くくっ…」


「はぁ…?」


「ふーっ……矢神さん」


「なに」


さっきまで爆笑してたのに、いきなりクソ真面目な顔になる。


かと思ったらまた気味悪い笑顔を浮かべ、私の横を通り過ぎた。





「…く、そ」


握り締めた拳で思いっきり机を殴りつける。


鈍い音が私以外誰もいない教室に鳴り響いた。



「あっ!いた!くーちゃん!もう帰っちゃったと思ったよ〜。…くーちゃん?」


「…玲奈」


「…?」


不思議そうに顔をのぞき込んでくる玲奈。


いつもなら可愛いだとか愛しいだとか、そんな気持ちでいっぱいになるのに、イライラした感情しか湧いてこない。


「くーちゃん…?」


私が何も言わないから怒ってると思ったのだろうか。


目がうるうるしてる。


「ごめん、」


玲奈の頬を両側から包み、ゆっくり唇を重ねる。


いつもより長く、深く。


「…っ、ん…ん…くーちゃ」


苦しくなったのか胸をトントン叩かれた。


「ん…、どーしたの…?くーちゃん」


「…どうもしないよ」


ぎゅっと細い身体を抱き寄せて、さっきまであいつのいた窓枠を睨みつける。


もうそこには居ないのに、あの憎たらしい声が聞こえてくる気がして思わず中指を立てたくなった。



「…まつい、じゅりな…」


「…?くーちゃん?」


「ううん、なんでもないよ」





『あんまりのんびりしてると、あたし玲奈ちゃんのこと奪っちゃうから』



去り際、あいつが私の耳元で囁いた言葉。



「…渡すわけねぇだろ」


「…?」


「玲奈」


「ん?…ふぁっ//」



玲奈の首元に顔を埋めて、強めに吸い付く。


そこには赤く鮮やかな花が咲いた。


私の所有物って印。



「くーちゃん、ここ、見えちゃう」


「平気だよ、玲奈が髪で隠せば」


自分勝手なことを言ってるってことくらいわかってる。


だけどそれくらい玲奈を渡したくない。


玲奈は私の恋人なんだから。



もし横取りしようもんなら…


覚悟しといて欲しい。



終わり
 

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