赤井夢

□嵐の予感
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窓を叩きつけるような横殴りの雨が、これから起こる嵐の予兆を予感させるーーーーー




頭上から降る無数の温かい雫を浴びながら、蓮子は夢見心地に瞳を閉じ今起きている出来事が現実だと改めて悟った



下半身に残る鈍い痛み・・・・




それは紛れもない確かなもので彼女の太腿の内側を赤い筋が流れる




浴室から出てバスローブに身を包んだ蓮子は、ベッドに腰掛けタバコを吸っている赤井秀一の隣に寄り添うように座った



「まだ痛むか?」

「いえ、大丈夫です。私すごく嬉しいです・・あなたと初体験を迎えることができて」



頬を赤らめている蓮子を一瞥し、赤井は肩を抱き寄せ額に口づけた



「・・本当に初めてなのか?」

「・・え?どうしてですか?」

「何と言うか・・いやらしい感じ方をしていたな」



冗談は止めてくれと言わんばかりに蓮子は赤井の頬を優しくつねった
ポスッと赤井に背をもたれかけ、体を包みこんでくれる彼の腕に頬ずりする


「このまま時が止まればいいのに・・・」


赤井の腕の中で、頭に浮かんだ言葉が蓮子の唇からこぼれた



ずっと恋い焦がれていた男と、ようやく迎えた初体験
それは蓮子が想像していたものとは異なり、痛みを伴うと同時に体の奥からジワジワと快感がこみ上げるものだった



結婚をするまで待つつもりだったが、赤井と逢う度に体の芯が熱くなり彼女は自ら抱かれることを望んだ
これからこんな風に肌を重ね合い、愛を囁き二人は強い絆で結ばれるのだ
そう確信していた・・・・




だが、それからしばらくしてーーーーーー





赤井秀一は殉職した≠ニ言う知らせが蓮子の耳に届いたのだったーーーーーー





彼女は、絶望し毎日のように嘆き悲しんだ
赤井と過ごした日々が走馬灯のように蓮子の頭の中を回り、遠い日の思い出のように白黒で浮かび上がる




どんよりとした都内の灰色の空は、彼女の心そのもので重く頭上にのしかかるようだった
赤井秀一がこの世から消えても当たり前のように日常は続くーーーーーー




毎日、顔を合わせる職場の面々・・・・
その中に赤井は居ないのだと改めて認識すると、蓮子はまた泣き出しそうだった




何百人もの人でごった返す都内の交差点で人の波に押されながら、蓮子は赤井秀一がもしかしたらこの中に居るのではないかと淡い期待を抱いた
この人の波の中に、ニット帽を被り、ジャケットを羽織り、ポケットに手を入れくわえタバコで歩く彼の姿が目に浮かぶようだ




何となく蓮子は、赤井秀一がまだこの世から完全には消えていないと感じていた




二人の間で結ばれた赤い糸をお互い手繰り寄せ合うように、糸の先を辿って行けばまた逢えるかもしれないーーーーーー
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