拍手御礼2「今日も奥州は平穏です(盛夏編)」
奥州三人組(政宗×主人公前提)
ある真夏の昼下がり。
茹(う)だる暑さのためか、思うように進展しない協議に政宗が重い息を吐いた。
そこへ冷たい甘味が差し入れられた。
「おっ!美味いっ」
先程まで眉間に皺を寄せて口をへの字に強く結んでいた成実が目を開いて明るい声をあげた。
部屋の澱んで留まっていた空気が少し軽くなったことにほっとしたのか、
頬を緩めた彼女に政宗は僅かに目を細めた。
「気に入っていただけて良かったです」
嬉しげな響きを含んだ声に、成実はもう一口、甘味を呑み込むと言葉を返す。
「――冷たくて、ツルッと喉を通るのがいいな。
味も甘いんだけど、さっぱりした甘味で、暑い日にもってこいだな!」
「確かに今日のような蒸す日には、ぴったりだな」
「そうですね」
成実の言葉に政宗と小十郎も頷いた。
「美味かった!」
たんっと勢いよく甘味が入っていた器を置いた成実に、
「お前は子供か」
小十郎が呆れた顔で小言を飛ばす。
二人の気のおけないやり取りに政宗と彼女は軽く目を合わせると小さく笑みを交わした。
「成実様、お代わりをお持ちしましょうか?」
「ん?お代わりがあるのかっ?」
「はい。政宗様と小十郎様はいかがなされますか?」
「いや、俺はこれだけでいい」
「私もこれで十分だ」
「では、成実様の分だけ、お代わりをお持ちしますね」
「頼んだっ」
部屋を出ていく背中に、成実は満面の笑みでひらひらと手を振った。
「本当、いいよな、政宗は」
彼女の姿が消えるとしみじみとした声が部屋に響く。
「……何がだ」
「今の美味い甘味、多分、煮詰まってるの心配して、お前のために作ったんだろう?
毎日、自分のために美味いもの作って貰えるなんて羨ましい」
むっと口を引き結んだ政宗の頬が、仄かに赤くなった。
そんな政宗に小十郎は嬉しげに口角を上げ、成実はニヤニヤと口元を歪める。
政宗はついっと視線を二人のいない方向に流すと一層強く唇を引き、憮然とした表情を作った。
「体調に日和、行事……他にも色々とお前のこと気にかけてるもんなー、あいつ。
愛だな、愛っ」
「成実――五月蠅い」
にやつきながら隣ににじり寄り、肩をばしばしと叩いた成実の手を乱雑に跳ね除け、
政宗は強い目で睨め付けた。
「成実、いい加減にしろ」
流石に放っておけなくなったのか、
微かに低くなった小十郎の厳しい声も鋭く放たれる。
「ほーい」
「返事はちゃんとしろ」
「はいはい」
「っ……お前は……」
聴こえた苦々しい声から漂うのは、小言が本格的なお説教になりそうな嫌な気配。
「さっきの件だけど、良い手を考え付いた」
元の位置に座りなおした成実の言葉で場の雰囲気が一変する。
「――なんだ」
緩み切った表情を少し引き締めた笑みが残る表情に政宗が問う。
眉尻を吊り上げていた小十郎も目を眇めて成実の顔を窺う。
「あのな……」
語り始めた成実の言葉に、二人は耳を傾けた。
今日も奥州は、平穏だ。