恋の乱LB

□愛の言の葉(主人公目線)
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「そう言えば、小十郎様、まだ部屋から出て来てないな」

邸の主である、心通わせた想い人の姿を今日はまだ目にしていない。
目を上げると太陽がそこそこ高い位置に辿り着こうとしているのが見えた。

「……やっぱり、手伝えば良かった」

昨夜、城から持ち帰った残務処理をするから先に寝るようにと小十郎から言われ、
時間がかかりそうだと分かっていたため、手伝うことを申し出たのだが
「大丈夫だよ」
とやんわりと断られたのだ。

(小十郎様の「大丈夫」は、信用できないんだから)

美弥は小さく口を尖らせ、眉を寄せる。
小十郎にとって最も優先すべきは主である政宗のことで、
自分のことはいつも後回し、なおざりにする。
政宗や成実の話によると、寝食を忘れて政務に没頭するのは、当たり前で、
以前はいつ寝て、いつ食べているのかよく分からなかったらしい。
二人がいくら心配しても、「大丈夫だ」「心配いらない」と全くに耳を貸さないため、
密かに小十郎の身を案じていたそうだ。

「今は美弥がいてくれるから安心だ」
そう政宗にしみじみ言われたのをよく覚えている。
確かに、美弥が小姓として小十郎に仕えて以降、美弥に不摂生を正され、
小十郎の生活は随分と改善された。

「本当、人らしくなったよな!」
とは成実の言だ。
だが、小十郎本人の信条が変わったわけではないので、
今回のようにすぐに無理をして、身体を損なうようなことをする。

(もう、目が離せなくて困るんだから)

きゅと表情を引き締めると小十郎の着物から手を放して空になった籠を取り上げ、
小十郎の部屋を目指し、邸へ足を向けた。
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