恋の乱LB

□愛の言の葉(主人公目線)
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「小十郎様?」

小十郎の部屋の前まで来たところで、美弥は障子越しに名前を呼び掛けた。
暫く小十郎の返事を待ってみるが、何の応答もない。
軽く柳眉を逆立てると、

「小十郎様、入りますよっ」

尖った声で断りを入れてから勢いよく障子を開けた。

「ぁ……」

褥で眠っている小十郎の姿が目に飛び込んできたため、
大きな声を発した口を思わず手で押える。
起こしてしまっただろうかと小十郎の様子を窺うと、
全く起きる気配は無く、よく眠っているようだった。

ほっと息を吐く。
健やかな寝息をたてる小十郎の寝姿に、
苦言を呈そうと思っていた美弥の気勢は、すっかり削がれてしまった。
おそらく遅くまで執務をこなしてから眠ったため、
こんなに陽が高くなっても寝過ごしているのだろう。

(どうしよう……)

あまり好ましくはないが休息を取っている小十郎を起こすのはしのびなくて、
うろっと視線を部屋の中を彷徨わせると文机の周りの惨状が視界に入った。
ぐしゃっと丸めて捨てられた紙屑に広げられたままの書物や巻物が散乱し、
文机の辺りは足の踏み場もない状態となっていた。
文机の上も仕上がったと思しき書類こそ綺麗にまとめて積み上げられているが、
それ以外の筆や硯といった道具類と資料等は乱雑に置かれている。

「昨日の朝は、ちゃんと片付いていたのに」

いくら言っても片付けに関しては、全く改善されないなと、
美弥ははぁと深く溜め息を吐いた。

目を閉じて一度、視界を閉ざす。背をピンと伸ばし、ゆっくり深呼吸をする。
気持ちを切り替えると表情を小姓のものに改めて、そっと部屋へと入った。
小十郎を起こさないよう静かに障子を閉めて、文机の所に歩を進める。
つい零してしまいそうな溜め息や小言を呑み込みつつ、
音を立てないよう気を配りながら片付けを始めた。
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