恋の乱LB
□愛の言の葉(主人公目線)
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文机の周りをすっきりと片付けると美弥は満足気に少し笑みを浮かべた。
小十郎はどうしたろうかと振り返って視線を向けてみる。
部屋の主は、美弥が部屋に入った時と変わらぬ姿で安眠を貪っていた。
様子を窺うため、立ち上がりそーっと褥へ近づき、小十郎の枕元に腰を下ろす。
(仕方がないなぁ)
気持ち良さそうにすぅすぅと寝息を立てる安らかな寝顔に、
美弥は困ったように眉を寄せたまま頬を緩めた。
前髪が落ちた穏やかに眠る顔は、普段目にする怜悧な美貌と異なり、少し幼い雰囲気を漂わせている。
(小十郎様、ちょっと可愛いかも)
見慣れた落ち着いた余裕を感じさせる大人の顔でも、
胸を落ち着かなくさせる艶めいた色香漂う甘い顔でもないものに、くすりと目を細めて笑む。
おそらくこんな無防備な姿は、心許した者にしか見れないものだろう。
小十郎が素の形(なり)を晒せる程、近しい存在になれたのだと思うと、じんわり胸に温かい感情が満ちていく。
「あまり無理をなさらないでくださいね」
こんなに安らいだ表情を見てしまったら、
日々、どれ程大変な執務をこなしているか知っている身として、
厳しいことを言えるわけがない。
小さな声で労わると小十郎を起こさぬようにそっと頭に手を伸ばし、
柔らかな髪をふうわりふうわり優しく撫でた。
普段、あまり触れることの出来ない髪の感触に、
口許の笑みが知らぬ間に深くなる。
「……ぅん……」
幽かに小十郎が身動ぎ、甘えるように美弥の手に頭を摺り寄せた。
子供っぽい仕草に、ふふっと小さな笑声を零すと、
それから暫くの間、目覚めぬ小十郎の頭を柔らかく撫で続けた。