恋の乱LB

□愛の言の葉(小十郎目線)
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「――」

何か心地好い音がした。

まだ、眠りに捕らわれたままではあったが、
耳朶に触れた音を確かめようと意識をそちらの方へと向ける。
まだ半分も明確に目覚めていない状態で、
何だろうかと気配を探っていると髪に温かく柔らかいものが触れて頭を撫でられた。
優しく慈しむように繰り返される動きに少し頭を寄せてみると、

「……ふふっ」

鈴を振ったような可憐な笑声が響いた。

(……美弥……?)

くすくすと小さく笑う気配に合わせて、やんわりと頭が撫でられる。
何故だかわからないが、美弥に頭を撫でられているらしい。
やっとまともに働き始めた思考回路で、気配と声から状況を推測する。
推測が正しいのか、目を開けて確かめてもよかったが、
何やら嬉しげな美弥の様子に、雰囲気を壊さない方がいいだろうと優しい手を感じながら微睡むことにした。

触れられる度に美弥の手から幸せなそうな想いが伝わり、
段々とくすぐったい気持ちになって表情が綻びそうになる。

(そろそろ起きるか)

言葉にし難い空気を少々名残惜しく思いながら起きることを心の内で決めた時、
愛しい手が止まって離れていった。

ちょうど好い頃合いだったかと目を開けかけた小十郎の耳に微かな衣擦れの音が入り込み、美弥の気配が急に近くなった。
どうしたのかと思い動きを止め、目を閉じたまま耳をそばだてて様子を窺う。

「小十郎様――大好きです」

突如、柔らかな息が耳を擽り、甘い声音が鼓膜を震わせた。
不意打ちの囁きに、小十郎は思わず息を詰めて目を見開いた。

大きく鳴り始めた鼓動が脈打つ身体を不自然に強張らせたまま、
視線を声の方へそろりと動かして様子を窺うと、
美弥が淡紅色の頬で少し照れくさそうに微笑んでいた。
目を伏せているためか、小十郎が起きたことに気付いた様子はなかった。

(可愛いことをする)

自然と頬が緩み、目尻が下がる。
既に何度も愛し合った仲であるのに、美弥は未だ睦言一つで頬を染め、
触れるだけの口付けに身体を固くすることがある。
初めての恋情を抱いているのは小十郎も美弥も同じだが、
異性との付き合いの経験値には天地程の差があるためだろう。
初々しさを失わない姿を可愛いと思う反面、気恥ずかしさを感じるということは、周りを気にしていることで、
もっと自分が美弥しか見えていないように自分に溺れて欲しいと憎らしくもある。
だから、美弥がどれだけ理性を失ったか計るように口にしない言葉を求めてしまう。
でも、今、贈られた言葉は美弥が自ら望んで口にした言葉。

想いの距離が縮まった気がして、大きく口の端を引き上げると胸中にある偽り無い本心を言の葉にして返す。

「――俺も愛してるよ」
「え?」

驚いた声をあげた美弥が、目をぱちくりしながら顔をこちらに向けた。
速まった脈が身の内を駆けるのを心地好く感じながら目を細めてやんわり笑むと
美弥は大きな瞳を丸くした姿ではたと動きを止めて完全に固まった。
その姿があまりに予想通りすぎて、小十郎は目に愉しげな色を混じらせて、笑みを深くする。
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