恋の乱LB

□愛の言の葉(小十郎目線)
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瞬きを忘れて小十郎の顔を凝視していた美弥の頬がサッと色濃い朱に色付き、
口を両手で覆って勢いよく顔を離した。

「ぁ……ぁっ……」

耳まで朱く染め上げて言葉が出ない様は、いかにも初な彼女らしい。
自分しか知らない姿に表情を崩し、目一杯、甘い微笑を浮かべて様子を窺えば、顔の赤色が一層濃くなる。

(――本当に可愛い)

そう思いながら美弥を眺める時間は然程、長く続かなかった。
美弥がつっと視線を逸らして腰を浮かせ立ち上がろうとしたのだ。
だが、逃走の気配を察した小十郎が、自分の手元から逃れることを赦すわけがなかった。
素早く細く白い腕を掴み、痛みを感じさせない程度の力で己の元へと引き寄せる。

「わっ?!」

胸元に倒れ込んだ柔らかな身体を優しく抱き込む。
じたばたと拘束する腕から逃れようとするので、
少し束縛する力を強めて離す気が無いことを言外に伝える。
暫く暴れられたが、最後には逃げられないと悟ったのだろう。
抵抗することを止め、肩口に顔を押し付けて静かになった。
胸が刻む早い響きと少し高い体温が重なる身体を通して伝わる。

「……いつから起きていらっしゃったんですか」

肩口に顔を埋めて表情を隠したまま問う様がまた可愛くて、自然にくすくすと笑いが込み上げる。

「――秘密」

肩を揺らしながら悪戯っぽく囁くとぎゅっと華奢な手が胸元の寝間着を握ったので、
笑うのを止めて、やんわり微笑みを浮かべる。

抱き締める腕から力を抜くと
美弥の手と同じく自分の手からも愛しい想いが伝わるようにと願いを籠め、優しく髪や背を撫で返す。
何度も手を動かしていくうちに、美弥の鼓動がだんだんと緩やかになり、やがて小十郎の音と重なった。

胸の音と同じように想いも重なり合っていることを、もう一度確かめたくて、愛しい名を呼ぶ。

「美弥」

呼び掛けた途端、重なり響き合っていた鼓動が大きな音をたててずれた。
だが、異なる心音が楽を奏でるように響き合っていることに気付き、緩い笑みを浮かべる。

「もう一度言って――ね?」

顔を少し上げて、おずおずと胸元から上目遣いで様子を窺う美弥にそっと手を伸ばし、
まろい頬を柔らかく包むと乞うように首を傾げる。
薄くなった頬にボッとまた火が燃え広がり、ずれた胸の音が倍くらいに跳ね上がった。

じっと美弥の澄んだ目を見つめていると、

「――大好き……です」

可憐な声が空気を震わせた。

少し恥ずかしげだが、揺るがない言葉に喜びを覚え、小十郎は応えるように大きく口角を上げた。
ゆるゆると滑らかな頬を親指でなぞりながら眦を下げて胸中の想いを言葉にして囁く。

「俺も愛してるよ――」

柔らかな響きに綺麗な笑みを返した美弥は、甘えるように小十郎の胸に頬を寄せた。


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